約 2,048,836 件
https://w.atwiki.jp/yugio/pages/5250.html
奇跡の軌跡(OCG) 通常罠 自分フィールド上に表側攻撃表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。 相手はデッキからカードを1枚ドローする。 このターンのエンドフェイズ時まで、 選択したモンスターの攻撃力は1000ポイントアップし、 1度のバトルフェイズ中に2回までモンスターに攻撃する事ができる。 そのモンスターが戦闘を行う場合、 相手プレイヤーが受ける戦闘ダメージは0になる。 罠 能力強化 連続攻撃 同名カード 奇跡の軌跡(アニメ)
https://w.atwiki.jp/aniwotawiki/pages/28616.html
登録日:2014/05/21 (水) 23 17 10 更新日:2023/01/08 Sun 21 55 19NEW! 所要時間:約 3 分で読めます ▽タグ一覧 ブルブラン 三浦祥朗 執行者 変態 怪盗 碧の軌跡 空の軌跡 英雄伝説 身喰らう蛇 閃の軌跡 閃の軌跡Ⅱ 零の軌跡 ブルブラン(英雄伝説)とは、英雄伝説軌跡シリーズに登場する架空の人物である CV 三浦祥朗 【概要】 西ゼムリア大陸全土(一番の被害国はエレボニア帝国)を股にかける神出鬼没の怪盗、通称怪盗B。同時に身喰らう蛇の執行者NOⅩ「怪盗紳士」ブルブランでもある。どっちが本業でどっちが副業かは不明。どっちも趣味な気もする。 顔出しをするのはSCからだが、FCの時点で怪盗Bとして名前は登場し、彼絡みのクエストも存在する。 この後の作品にも、顔出し又は怪盗B絡みのクエストにて多く登場する皆勤賞キャラであったが、残念ながら現在は途切れてしまっている。 基本的に美しいと思ったものなら何でも盗み出す怪盗。しかしこの美しいと思ったものの範囲が広く、あちらこちらにちょっかいをかけている。 怪盗らしく美術品や工芸品は勿論のこと、人の心や内に秘めた力、はたまた雄大な自然が戦火に包まれて散る間際の風景のような悪趣味なものまで自分の美学に合ったものを手に入れるために活動する。 また、興味を持った人間を試す意味で物を盗み、その場に挑戦状(なぞかけ)を置いて行くこともある。作中で怪盗Bと絡むのは大体こちら。 シリーズ恒例の怪盗クエストで、the3rdと閃の軌跡Ⅲ以外の全作品で登場している。 怪盗としての腕前は人間離れしている。かつては帝国軍から戦車を盗み出したと言われており、半ば伝説として語られている。そんな馬鹿な話が、と思うかもしれないが作中で彼は誰に気付かれることもなく市庁舎から巨大なオブジェを盗み出し、さらに誰にも気付かれることなくそれを市長邸に放置するという意味がわからない事を平然とやってのけている。 また変装の腕前も尋常ではなく、今のところ見抜けたのは(ブルブラン自身が試していた節もあるが)リィンのみ。 以上から各国から警戒され指名手配されている彼だが、同時にその鮮やかな手口に魅せられた熱狂的なファンも多いらしい。 その性格は疑うこともなく変態である。その変態っぷりはシリーズ通してトップクラスであり、対抗できるのは美に対する認識で意見を対立させライバル認定しているオリビエぐらいか。ファンからついた渾名が変態紳士。 またクローゼの事が好き(?)なようで、変態的なアプローチをしている。クローゼが何とかしてその思いを逸そうと自分を卑下しても、それすらまた美しいと余計に思いを募らせる始末におえない変態。 そして腹が立つ事に執行者なだけあって戦闘能力も高い。最低でも達人級の腕前は持っている。戦闘面では奇術を用いた搦手が得意なトリッキータイプで、エステル達との初邂逅の時には影縫いで彼女らの動きを瞬く間に封じてみせるなど、次元が違う実力を見せつけた。 実際の戦闘では嫌らしい状態異常をばら撒いてくる。その分状態異常対策をしっかりしておけば苦戦することはあまりないと思うが。 【劇中での活躍】 FCでは大陸中で有名な怪盗的な認識でしかなかったが、SCから結社の執行者として本格的に絡んでくる。 因みに結社の計画には割りと協力的なようで、「レーヴェ外伝」でヴァルターとルシオラが計画の参加に消極的だった時も、彼は普通に参加していた。 空の軌跡での最終決戦の後は、ちゃんとリベルアークからヴァルターと共に脱出しており、レーヴェの死を惜しむと同時にルシオラの無事を祈っていたりした。 3rdでも登場はするが、こちらは幻影。なんだか執行者3人の真ん中に居たり、彼のセリフとともに執行者戦の名曲「maybe it was fated」が流れ始め戦闘開始となるので、やけにかっこよく見える。変態なのに。 あと3rdにある扉の一つに、彼の正体について考察している扉がある。X、Y、Zの3つの仮説が立てられるが、結局正体は明言されない。しかしプレイヤーの我々ならその正体を知ることが出来る。ヒントは彼の執行者No。 零・碧の軌跡では怪盗Bとして特務支援課の面々に恒例のなぞかけクエストを与える。 なお碧でのクエストは、どうやら碧の黒幕に頼まれてやったことのようで、その後は帝国に向かったと思われる。 閃の軌跡では割と序盤からその姿を確認できる。1章では後ろ姿のみだが、2章からⅦ組の面子に興味が湧いたのか「ブルブラン男爵」と名乗り、まさかの素顔で色々と絡んでくる。 4章では本格的にⅦ組がお気に入りになったようで、毎度恒例の怪盗Bクエストを発動してくる。そしていつも通り変装して自分の謎かけに右往左往している面子を眺めていたが、途中で「ブルブラン男爵」として会っていたのが効いたのか、リィンに変装を見破られている。 その後本編では終章まで出番がないが、ドラマCDではⅦ組というよりリィンと彼が持つ「力」に興味がわいたようで、遥々ユミルまで追いかけてきて異変を引き起こす。この時自身が「身喰らう蛇」の執行者であることを明かしており、リィン達にとって初めての「身喰らう蛇」との邂逅となった。 閃の軌跡Ⅱにも引き続き登場。 同じ執行者のシャロンさんと敵対することになった時はノリノリだったり、「鬼の力」を操れるようになったリィンや、美のライバルであるオリビエと彼の腹違いの妹アルフィンとの邂逅では歓喜したりと最初っから最後までずっと楽しそうである。 途中サラ教官に「評判悪いわよ、アンタの悪ふざけ」とプレイヤーの代弁とも言える突っ込みを入れられるが全く懲りる様子もなく、 Ⅱでも勿論クエストを出してくる。それも前作が簡単すぎた反省を踏まえてか、かなり面倒くさいものを。 だが残念ながらⅢにおいて、とうとう顔出しも怪盗Bクエストも存在しない未登場キャラになってしまい、皆勤賞がここで途切れてしまう。 何でもⅢにおける結社の方針が、第二柱《蒼の深淵》と同じく彼に合わなかったようであり、帝国から遠ざけられてしまったようだ。 このためストーリー上仕方のないとは言え、怪盗Bクエストが無かったことにがっかりした古参ファンも多いとか少ないとか。 と思いきや、閃の軌跡ⅣにてⅢに登場したとある人物に変装して見事出演を果たしていたことが判明。当然Ⅳにも登場し、見事変則的ながら皆勤賞を貫き通した。 創の軌跡ではシェラザードが結婚式で使うウェディングドレスを盗み、恒例の怪盗Bクエストを発動してくる。 最後は返還、偶然ブルブランが手に入れた皇家に伝わるティアラ(ブルブラン以外の何者かが盗んだものの模様)もプレゼント返還し、二人の結婚を祝福するメッセージを残した。 追記・修正は全ての怪盗Bクエストを一切攻略を見ないでクリアした人のみがお願いします。 △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- ▷ コメント欄 [部分編集] その正体は実は「海難事故で死亡したリベール皇太子だった」という説があった頃が懐かしいw -- 名無しさん (2014-05-22 00 25 08) 唯一の皆勤賞とあるけど、アントン達も皆勤賞じゃないかな? -- 名無しさん (2014-05-22 15 43 57) 碧には出てないよ -- 名無しさん (2014-05-22 16 18 32) アントン達は碧には出てないから皆勤賞は逃してる。ついでにキリカさんも閃に出てこないから皆勤賞は逃してる -- 名無しさん (2014-05-22 17 50 25) あのオブジェのやつホントどうやったんだろうな(笑 -- 名無し (2014-09-02 07 08 33) 閃Ⅱではずっとハイテンションだったな -- 名無しさん (2014-10-04 04 27 53) 閃Ⅱでは、Sクラフトが当たったらメンバーのHPを1にする効果に変更されていてウザさが更にパワーアップしてたな。 -- 名無しさん (2014-10-04 10 58 07) 最終戦で召喚する雑魚が無駄に固い上に回復技使ってきてまじウゼェェェ -- 名無しさん (2014-10-04 11 42 21) 普段は自重している覇道のクォーツやSクラフト、バーストドライブ。セントアライブなどを総動員してでも、叩きのめしたくなる!このウザさは、もはや職人芸。 -- 名無しさん (2014-10-04 13 34 46) サラ教官の「評判悪いわよ、アンタの悪ふざけ」ってセリフに吹いたわ 毎回めんどくさいもんなあ -- 名無しさん (2014-10-06 14 02 13) 閃Ⅱでうざったさが倍増したw -- 名無しさん (2014-10-09 09 19 35) ↑7 へんた……もとい、天才のやる手段は、我々凡人には想像すらできないものさ(棒読み -- 名無しさん (2014-10-09 09 53 22) コイツ何気に作中屈指のチートだよな。マキアスそっくりやったし(笑)しかし、コイツ閃の軌跡3(?)にも出るかな? -- 名無し (2014-11-27 03 32 40) ↑それ以前に、暁に出ないかな。零や閃での色々で忙しいだろうが、なーに、彼のトリックを使えば、いくら遠くてもちょちょいのちょいさ♪ -- 名無しさん (2015-07-25 09 02 24) 仮に身喰らう蛇が無くなることになったとしても、コイツだけは間違いなく生存して活躍し続ける。そんな安心感に似た何かすら感じてしまうw -- 名無しさん (2016-05-08 15 22 51) Ⅲはちょっと怪しくなってきたなぁ。今現在、公式サイトに名前ないし……。ところで、5の詐欺師フロードを読んでいると、どことなくこいつを思い浮かべてしまうのは気のせいか? -- 名無しさん (2017-07-27 06 58 03) ↑公式サイトに名前がないとか関係ないと思う、あのイベントは(笑) -- 名無しさん (2017-07-27 07 02 43) ついに皆勤賞逃しちゃったなぁ -- 名無しさん (2017-10-09 00 02 12) ここに来て怪盗クエストを出さないとか、スタッフは何考えてるんだろうという -- 名無しさん (2017-10-27 22 20 47) IIIにも一つだけそれっぽいクエストがあるんだよなあ…あれは単に怪盗Bがない代替なのか、それとも…? -- 名無しさん (2017-10-27 22 51 34) 美のライバルもあんなことになってしまったがⅣで二人とも華麗に復活してくれることを切に願う -- 名無しさん (2017-10-28 02 27 58) ↑二人が共闘する展開になったら熱いな! -- 名無しさん (2017-10-28 07 48 02) 中盤以降怪盗Bクエがなかったのでラクウェルの宝石~ので来たか!?と思ったけどおもっきり空振りでがっかりしたわ -- 名無しさん (2017-10-29 18 44 54) 怪盗Bとしては顔出ししてないし謎掛けもないけど実は3で出演していたことが4で判明(クエストも一応有り) -- 名無しさん (2018-09-26 15 18 12) 閃Ⅲあれ変装じゃないんだが……、あと空3にも専用扉あるし実質でてるようなものじゃない? -- 名無しさん (2018-10-25 20 13 32) 密かに結社からもさりげなく退社していた模様 -- 名無しさん (2021-05-09 07 23 57) 黎もブルブランっぽい人が…レンにも協力仰いでるしかなり怪しい -- 名無しさん (2021-10-11 02 10 42) ↑ヨシュア・レン・復帰の望みはあると見なされてる。 -- 名無しさん (2021-12-02 17 08 35) ↑× -- 名無しさん (2021-12-02 17 08 53) ↑×4 ヨシュア・レン・シャロンと違って復帰の望みはあると見なされてる。ルシオラともどもまた近いうちに出てくるだろうな -- 名無しさん (2021-12-02 17 10 09) とうとう本人出演が途切れたなぁ…一応テキスト上では出てきているが。 -- 名無しさん (2023-01-08 21 55 19) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/raisyo/pages/333.html
キャプテン翼 激闘の軌跡/攻略 キャプテン翼 激闘の軌跡に戻る ココで質問をしたら心の優しいお方が答えてくれるかもしれませんよ。 コンテンツ 南葛編vs伊藤中 vs大友中 vs東一中 vs花輪中 vs比良戸中 vsふらの中 vs東邦学園 南葛編 vs伊藤中 キャプテン翼 激闘の軌跡/攻略/vs伊藤中 vs大友中 キャプテン翼 激闘の軌跡/攻略/vs大友中 vs東一中 キャプテン翼 激闘の軌跡/攻略/vs東一中 vs花輪中 キャプテン翼 激闘の軌跡/攻略/vs花輪中 vs比良戸中 キャプテン翼 激闘の軌跡/攻略/vs比良戸中 vsふらの中 キャプテン翼 激闘の軌跡/攻略/vsふらの中 vs東邦学園 キャプテン翼 激闘の軌跡/攻略/vs東邦学園 近日掲載しますね。 -- 管理人 (2010-05-26 19 49 58) エピソ-ド進めたい -- きこじ (2011-10-11 17 18 36) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5178.html
この作品は、原作の流れに沿って描いている描写もありますが、オリジナルで展開 していく予定です。 内容に納得がいかない、これは違う、これは苦手だ、などの不満 を抱かれた方はそこで読むのを止めて出来るだけスルーでお願い致します。 以上を踏まえて、『朝倉涼子の軌跡』宜しくお願いします。 ────────────────────────────────────────────────── 本編 ・『SOS団』 ・『朝倉涼子の思惑』 ・『この世の真実』 ・『涙』 ・『絶体絶命』 ────────────────────────────────────────────────── 断章 ・『心、通わせて』
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/6060.html
14,宇宙原産ブルーローズ 長門のマンションには何度か行ったことが有る。管理人のおっさんとも微妙な顔見知りだったし、入り口で手間取ることは無い――そのはずだった。 だが、実際は車から出て数歩足らずで俺の足は止まってしまっている。逸る気持ちは急制動を掛けられ、慣性の法則に従いたたらを踏んだ。 「……お前か」 マンション前には見知った背中の持ち主が佇んでいた。と言っても管理人のあの人とは似ても似つかない美少女だ。彼女は長袖の北高セーラに身を包み、この冬空の下でありながら防寒具の類を他に一切身に付けていなかった。通りすがりの赤の他人が見たら十人中五人くらいは怪訝さに眉を顰めるであろう出で立ちなれど、俺はそこに何の感慨も抱けなかった。これは加齢を根拠とする感受性の鈍化とはまた別の話だ。 その服装に理解が有るのは……これは残念ながらとでも言うべきなんだろうな。 防寒具を着ていないのはソイツには真実、必要ないから。そう、気温や体温などアイツにはどうとでもなるのだ。俺たちと違って。 この非常識さんめ。 ああ、ちくしょう。もし何かの手違いで本物の幽霊に行き遭ったとしても、それでもここまで俺の背筋を凍らせることはきっと出来やしないんだろうよ。全身が総毛立つとはまさに今の俺の事だ。体育の授業が有ったら躊躇わず見学を申請するくらいには気分も悪い。 「そ、意外でしょ」 超然という言葉の意味を体言する少女の立ち姿。凛と背筋の伸びた佇まいは例えるなら桔梗ってトコか。いやいや、似ても似つかないが薔薇ってのも大穴で有り得るだろう。美少女――だからこそサソリの尻尾が可愛く思えるような棘だって隠しているんだろうよ。 艶やかな腰丈の髪やスカートは時折吹く痛烈な北風にすらなびく様子がちっとも見られない。何をどうしていやがるのか。大気なんてものは世界に無きがごとくに振る舞うソイツ。マジで情けない話だが喉がグビリと鳴るのを抑えられない。 ――勿論、恐怖でだ。 「そうでもないな。なんとなく『来るだろうな』って予想はしてたんだ」 「それって有機生命体固有の予知能力?」 「いいや、ただの勘だ。俺を驚かせたかったってんなら、そいつは期待に添えなくて申し訳無い」 「ふうん、残念。でもまあ、いいわ」 少女はゆっくりと、焦らすように時間を掛けて首を後方に倒し、そして車を降りた俺たちの方を見つめた。 眼が合う。実物を見たことは無いが、にしたって蛙を睨み付ける蛇ってのはきっとあんな感じなんだろうぜ。女子中学生が抱く淡い恋心のような「もしかしたら」は当然の如く裏切られ、少女の見ているものは佐々木でも古泉でもなく――俺である。 どうして俺なんだ、と今更言い出すほど恥知らずではないつもりだが。しかし、俺とアイツの間の関係が縁だってんなら今すぐ縁切り寺に駆け込みたいね、マジで。 「あんまり遅いから待ちくたびれちゃったの、私」 勝ち気で明るい声は相変わらずだ。谷口曰くAAランクプラスの美少女は俺へと向けて歌うように笑う。 「遅い?」 「貴方が来るのを待っていたのよ、長門さんと一緒に」 元クラスメイトが玄関の自動ドアに右手を翳すと、それはセキュリティにと設けられたパスワード入力も無しに開いた。ま、そんなんは大して驚くことでもないが。っていうか、これくらいで一々驚いていたらSOS団には在籍していられないしな。 「さ、いつまでもそんな所にぼーっと立ってないで入ったら? 長門さんに用が有るんでしょう?」 そう促し、無防備にこちらへ背後を見せてマンションの中に入っていく少女。俺たちはその足取りを自然、目で追う形となった訳だが。丁度エントランスの自動ドアのレール辺りをソイツが歩き越えた時、俺の見ている前で陽炎のように少女の姿が不自然にあるいは超自然に歪んだ。今は十二月。建築物内外の気温差は確かに有ろうが、しかし光が歪むほどであってたまるか。 はあ、少しくらいカモフラージュしてもいいだろうに。何をって? 決まってんだろ。手品の種、もしくは落とし穴だよ。 「これ、完全に罠ですよ」 古泉が言うも、んなモンは言われんでも分かってる。あのマンションに入ったが最後、東西の物理学者が押し並(ナ)べて頭を抱える不思議空間にご招待ってんだろう。ただ、それにしたって長門の部屋に向かうにはトラップゾーンを避けちゃ通れんしな。回避出来ない罠なんてゲームだと顰蹙ものだぞ。しかも事前にバレバレなら尚更だ。 現実はゲームと違うなんてのくらいは分かっちゃいるが。ルールの有無が両者を分かつ一線だな。高校二年生という若さで不条理と書いて人生と読み替えるほど悟りたくはないもんだ。 「キョン、古泉くんは気構えをしておけって言っているのさ」 あのなあ佐々木、それも通訳して貰わんでも分かってるって。気構えなんてそれこそとっくのとうだ。 お前は知らんだろうが、あの歩き去った元クラスメイトとは何かと縁が有ってな。その前に立ってリラックスしろってのが軽く無理難題になっちまうくらい、俺の中で一、二を争うトラウマメイカなんだぜ、ああ見えて。 冗談じゃなく、死にかけたし。それも一度じゃないってんだから、ああ、我が身の不幸を嘆くしかない。 「気構えを幾ら重ねても気休めにしかならん」 なるようにしかならんのがどうにも歯痒い。運命ってヤツも俺の意思をもう少しくらい汲んでくれても罰は当たらんと思う訳だが、それこそ世界がハルヒプロデュースで成り立っちまっている以上、高望みか。 「用が有るのは多分、俺一人だ。古泉、分かってるとは思うが佐々木を頼む」 立ち止まっていた一歩を踏み出す。閻魔大王の前に歩き行く心持ちであったのは否めないが、しかしここで引き返す選択肢だとか俺には持ち合わせがない。だったら進むだけだ。一寸先が闇だろうと、虎穴だろうと。 「お任せ下さい。……あなたが時間を稼いでいる間に長門さんを連れて来るつもりですが、決して無理はなさらず」 「ああ。俺だって始末書の肩代わりなんかお断りだからな」 「では、ご武運を」 ユリウス・カエサルであれば腕を振り上げて「賽は投げられた」とでも宣言するんだろうこの場面を俺たちはこうもあっさり終わらせる。 「キョン、大丈夫なんだろうね?」 佐々木の声が背中に降る。さてね、これからどうなるかなんて俺には皆目見当も付かんよ。だけど、 「ま、なんとかなるだろ」 それは俺の偽らざる本心でもあったのだから始末に負えないとはこの事だぜ、ホント。 信頼と経験と、そして男子としての強がりをスパイスにしてだらしなく開きっぱなしのマンションの自動ドアを潜る。予測して覚悟していた頭痛や吐き気はなく、しかし代わりに、 「やっぱ、こうくるよな」 持ち上げた右足で踏みしめたのはタイルの床ではなくざらりとした砂粒だった。 視界は……いや、世界は一変していた。見渡す限りどこまでも続く砂地。これはもう砂漠と言うべきか。正面、そこに一人の少女が佇んでいる。 少女――朝倉涼子は俺の姿を認めると場違いなほど煌びやかに笑った。 「いらっしゃい。招待を受けてくれてとっても嬉しいわ」 「半強制で連行しといてよく言うぜ」 本来ならばここには何の変哲も無いマンションのエントランスが広がっているはずである。しかしどう言ったらいいのか、この流れでその「何の変哲も無い」エントランスのままであったのならばきっと俺は逆に驚愕していただろう。慣らされちまってんな、とは自分でも思う。 いつか、トンデモが当たり前と完全に入れ替わっちまったら誰が責任を取ってくれるのか。誰も取ってくれやしないだろうってのは間違いないと断言してしまえるのであるから、自分をしっかり持たないと。 「あら、その言い方は変よ。私はちゃんと『ここで帰ったら見逃してあげる』ってサインを送っていたつもりよ、こう見えて」 「ああ、そうかもな。だが、お前は俺たちが『ここで引き下がれる訳が無い』ってのにも気付いていたはずだ。違うか、朝倉?」 「どうかしら。あなたたち有機生命体が時として合理的でない判断をするのも、無謀でしかない決断を下すのも知識としては持っているけれど理解は出来ないのよね。この機会に聞いてみようかな。ねえ、あなたはどうしてそんなことをするの?」 やれやれだ。首を左右に振るジェスチャでそれを伝えると同時に佐々木と古泉の不在を確認する。よし、周囲に二人の姿は見られない。どうやら本当に朝倉の用は俺一人に集約されているらしい。頼むぜ、古泉、佐々木。首尾良く長門をここに連れて来てくれよ。 贅沢は言わないが、なるべく早くな。 「お前には分からないさ」 「……そっけないのね」 どの口が言いやがる。過去、命を狙ってきたようなヤツ相手にフランクになれるのは漫画やアニメの中だけだ。現実はこんなモンさ。 「でもな、きっと長門なら分かってくれる。いや、きっとじゃない。絶対だ。アイツなら分かる。そっちに聞いてみたらどうだ?」 朝倉の眉が俺の挑発に反応してぴくりと跳ね上がった。豊かな表情を持ち、まるで人間みたいな少女だ。対しての俺の長門は世界無表情選手権シード枠で、人間らしさがとても希薄に見えたりもする。「どちらかがアンドロイドでどちらかが人間です。さてどちらがどちらでしょう?」みたいな質問をしたら百人中九十六人までもが朝倉の方が人間だと、そう回答するだろう。 でも、それでも百人中四人は長門を選ぶ。 ハルヒは。古泉は。朝比奈さんは。 そして、俺は。 「長門はお前とは違うからな」 アイツの友達で、仲間だからだ。 「違わないわよ。長門さんは対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェイス。私と同じ。何を言っているの?」 朝倉が幼い子供の間違いを正すように俺を諭す。本当に朝倉には分からないのだ。長門と自分の違い、ってヤツが。俺にも上手く言葉に出来ない。いや、言葉にしたら途端に陳腐になっちまう。 長門には心が有る、って。 「朝倉。お前に自分の意思は有るか?」 「意思? それも理解出来ない概念ね」 「だろうな。お前は上の言う事をこなすだけだ。長門だって大体そんな感じだしさ。出会ったばっかの頃は本気でその傾向が顕著だった」 「今はそうではないとでも言いたいの?」 今年の春には俺はもう当たりを付けていた。直接聞いた事は無いが古泉だって気付いちゃいるんだろう。長門が俺たちの前に現れた意味と、なぜ長門だったのかの答え。出会いたての折、少女は言った。ハルヒに近付いたその目的は自律進化の可能性だと。 「気付いているはずだ、お前も、『お前ら』も。違っていることには気付いていないとおかしい。ただ、何が違ってしまったのかが分からない、理解出来ないから同じだと思い込んじまってる。なあ、朝倉」 「何?」 「SF小説は好きか?」 「好きとか嫌いとか、そんなものが有ると思うの? 優先順位で言えば、」 ああ、もういい。その口振りで大体は分かった。 そして、ここまでのやり取りでおおよそは掴めたし。 「だったら今度、長門におすすめを何冊か貸して貰うといい。俺の予想が確かなら、それがお前らが必死になって探し回ってる自律進化の可能性とやらだ」 思いっきりベタな代物を銀河規模で要求する宇宙人どもだとほとほと呆れ返る。長門が無口キャラの文芸部員だってのはハルヒの望んだ通りの設定な訳だが、しかしそれは果たして予定調和だったりするのだろう。閉塞する未来を打ち砕くには読書狂の宇宙人が必要だったんだ。ま、これは今になって思う結果論だが。 「……ねえ、もしかして馬鹿にしてる?」 「少しな。なんでそんなに賢いのに、こんな簡単なことに気付けないんだとは思ってる。そう怒るなよ。いや、怒れないんだったか、お前は。感情とか無いんだもんな」 俺の言葉に朝倉は「一切の表情を消し」て「微笑ん」だ。その無表情は長門のようでもあり、長門とは似ても似つかないとも感じる。俺は知っている。朝倉の顔には能動的なあの二ミリが決定的に足りないんだ。作り物じゃない、あの奇跡の二ミリメートルが。 「長門は変わったぞ」 朝倉の視線が突き刺さるも何度だって言ってやる。いつの間にか俺は時間稼ぎが目的の問答だってのをすっかり忘れてしまっていた。友達を誇るってのはそんだけ気持ちがいいものなんだろう。 「アイツは自分から未来を見るインチキを放棄した。それが決定的で確定的な全てだ、朝倉」 「インチキ? ああ、それって異時間同位体との同期のことよね、きっと。確かに私にはまるで分からないわ。長門さんの行動はエラーとしか考えられない。どうして自分の機能に自分で制限を掛けるのかしら、彼女」 俺に向けてか長門に向けてか。違うな。多分、自分自身に向けて。そう質問する朝倉ももしかしたら変わり始めているのかも知れなかった。が、俺にはそんな朝倉になんと言って感情の理解を促せられるのか分からない。そういうのは俺の分野じゃないんだ。ま、言っても俺に分野も専門も有りはしないが。 ただの高校生にそんなモノを求める方が間違ってるさ。そうだろ? 「詳しいことは俺も分からんから、なんとなくこうなんじゃないかって予想で話すが」 そう、例えるなら、 「長門にとってその『同期』とやらは羽みたいなモンなんだろうさ」 似合わない事を言ってんなあ、と思う。いわゆる「キャラじゃない」ってヤツだが、キャラ作りなんて特別意識した事も無いからどうでもいいか。 「羽? それって空を飛ぶための?」 「ああ。俺たちには当ったり前だが、んなモンはない。空なんか飛べない。でも、お前らは持っていた。空を飛べるんなら俺たちとは生きていく場所が違って当然だ」 雲の上か、天空の城か。重力に縛られないなら、こんなせまっくるしい地上を寝床に選ぶ方が馬鹿だ。 どいつもこいつも馬鹿ばかりだ。 でも俺はそんな馬鹿が巻き起こす馬鹿騒ぎってのだってたまになら嫌いじゃない。そもそもハルヒの周囲に居るって時点で筋金入りの馬鹿なんだ。俺も、そしてそれは長門も。 あの瞳に満載された液体ヘリウムは今にも溢れ返りそうな好奇心を必死にひた隠すための冷却材であるのかも、なんて俺はたまに思う訳だ。 「そうだな、俺も悪いんだろうよ。深く考えずに長門と友達になっちまったこと」 「長門さんはあなたたち地球人類と並列になろうとしたって言いたいの? そんなの有り得ないわ」 有り得ないの根拠はなんだ、朝倉? 「有機生命体のような自己連続性に立脚しない不安定な意志決定機能を私たちは持っていないの。個体の区別は付けても一時的ですら差別はしないわよ」 そんな、辞書引いて目に付いた単語を適当に配置したような台詞を吐かれてもな。友情や感情なんて理解出来ないなどと俺なりに出来る限り頑張って意訳してみたが、もし間違っていてもクレームの報告先は俺じゃないだろ、コレ。 「友達になったと思っているのは俺だけだ、ってか」 「長門さんにとっての貴方の価値は最初から不変のはずよ。涼宮さんに最も近しい特別な背景を持たない地球人類、それが貴方の全て」 宇宙製デジタルアンドロイドの少女は言う。でも、本当にそうか? いやいや、俺が普通普遍の一般人ってトコに異論は無い。そうじゃなくて。 長門が他者をどう思っているか、なんてそんなの本当のところは長門にしか分からんが。けれど誰もを特別に思わないなんて、平等に無関心だなんて。 それは無理が有るだろ、朝倉よ。 「涼宮ハルヒが文芸部室にてSOS団なる珍妙なクラブ活動を発足した時、俺はその目的を問うたんだけどな」 「何の話?」 朝倉が首を捻る。いいから聞けって。 「そん時、あの馬鹿は俺にこう返した。『宇宙人、未来人、超能力者を探し出して一緒に遊ぶ』のだ、とな。それがハルヒの願いだ。アイツの願いは」 涼宮ハルヒの願望は、 「それが本心である限り現実になる」 宇宙人だから友情を持てない? 人と仲良くなれない? うるせえ。んな訳有るか。 ハルヒが一緒に遊びたいと願ったんだ。片方だけが楽しいんじゃ、それは遊ぶとは言わない。少なくとも俺の知っている日本語ではそうはなってない。実は常識人な一面も持ち合わせているらしいハルヒもそこのとこは間違えないようになった。 だったら長門は俺たちと楽しく、そして仲良く遊べるはずなんだ。それを願うあの馬鹿が居るんだから。 俺たちが心から仲良くなれないようなら、そんな世界は嘘っぱちだ。 「長門が同期を絶ったのは――羽を切ったのは俺たち対等になりたかったとか、地球人と同じになりたかったとか、そういう立場とか打算とかじゃないだろ、きっと」 喋りながらまるで絵本でも読み聞かせているような心持ちに陥りかけたのは、目の前に居る朝倉が少しだけ、気の迷いってくらいに二ミリメートル程度、出会ったばかりの頃の長門とダブって見えたからだった。 「未来は分からないからこそ面白い。そんなハルヒズムに悪影響を受けたんじゃねーのか、長門も」 良くも悪くも影響力の強い女。まるで恒星のように周りを有無を言わさぬ引力で巻き込んで、あっという間に銀河系を作り上げちまったとは俺の印象。 それが俺たちの戴く団長サマである。 「……やっぱり、貴方はそう考えるのね」 そう言った宇宙人の瞳が俺を真っ直ぐに貫き、背骨を生理的嫌悪感が上から下までバケツリレーのように這い回る。コイツに対する態度で何かを決定的に間違ったと、経験によって培われた俺の常人離れした第六感が狂ったんじゃないかって具合に警鐘を打ち鳴らす。 「それって」 なんだ、俺は何を言った? 何をしくじった? コイツら宇宙人が求めている最終目的に関する重大なヒントを教えてやったってのに、いわば恩人の俺に対してどうして朝倉は明確な敵意を向けている? 「つまり、もう貴方は用無しってコトじゃない?」 その台詞が合図のように朝倉の姿は消えた。一瞬、このよく分からない空間に一人で置いていかれたのかと焦ったが、それ以上に俺を焦燥に駆り立てる状況に陥っていると気付いた時にはもう、身動き一つ出来なくなっていた。 喉仏が上下に動くそれだけで冷たい金属質の何かが俺に接触する。これが正しく紙一重。いつかのトラウマが色鮮やかに甦った。 「あさ……くらっ……?」 「本当は気付いていたのよ、長門さんの変化に。それでも私が貴方の前で何も知らない振りをした理由、分かる?」 失念していた。いや、あの春の出来事はジェットコースタ過ぎて正直仔細を覚えていないというのも有った。それでも……なんなんだ、さっきから付き纏うこの違和感は。 朝倉が持つサバイバルナイフの切っ先は正確に俺の喉を狙っている。これではまともに会話も出来やしない。説得なんて以ての外だ。無理に喉を動かせば刃が皮膚を切り裂くのは想像に容易く、そしてそれは場所が場所だけに致命傷にも成り得るかも知れず。 緊張に唾を飲み込む事すら俺には許されちゃいなかった。 俺の肩口を越えてすらりと長く地面に対して平行に伸びた腕は北高セーラの長袖に覆われている。その手には逆手にサバイバルナイフが握られ、ミリ単位の前進すら俺に許さない。動けば殺すと、この状況下でそれを理解出来ない馬鹿はそうはいまい。 背後から靡く甘ったるい花の香りだけが、見事に空気を読んでいないのが殊更に今の非常識を演出していた。 朝倉は言う。 「貴方が長門さんをどう評価しているか、正しく評価出来ているかが知りたかったのよ。私と長門さんは鏡。表裏でしかないって、ねえ、前にこれ言わなかったかしら?」 イエスもノーも告げられやしないこんな状況で質問されても実際問題どうリアクションを取ればいいんだ、俺は。なんかホラー映画で殺人鬼がこれから犠牲者にならんとする相手に対して意味の分からん事を口走って一人で納得するシーンに通ずるものをさっきからひしひしと感じているのだが。 冷や汗が流れ落ちるのと汗が一気に引くのはどちらが正しいのかと言えば、俺の場合はどうやら後者であったらしい。 「長門さんは変わったわ。それは涼宮さんのせいでもあるし、貴方たちのせいでもある」 耳元に息が掛かる。 「さっき言ったわね、自己連続性に立脚しない不安定な意志決定機能。私たちが本来持たないそのプログラムが、けれど彼女の中には確かに存在している。とても非合理的なものよ」 朝倉は……何を言っている。何をしている? 客観的に見れば俺の喉元にナイフを突き付けて意味不明な事を口走っているとなるが、しかしだ。 「無害なら私だって放っておくけれど、残念ながらそう言える類ではないみたい。扱いを誤れば私たちの存在を根底ごと引っ繰り返せるんじゃないかとも思っている」 ちょっと待て。この状況、とても非合理的じゃないか? だって、そうだろ。殺すつもりならば問答も会話も一切合切必要が無い。蛇の生殺しみたいな悪趣味は止めてさっさとやればいいし、そもそも何の力も持たない俺くらい楽にどうとでも出来るだけの力を朝倉は持っている。勿論、サクッと殺されては俺の方は堪ったものではないが、とりあえずそこは置いておいて。 一度、朝倉は俺の殺害を試みて失敗しているのだ。あの時だって勿体付けずに実力行使していれば長門が間に合うことも無かった。あそこでゲームオーバーすらマジで有り得た話。だったらそれを反省して余計なお喋りを止め、即実行に移すべきではないか。 俺がもし朝倉で、俺の殺害を本気で考えているのならまずそうする。 「エラー、もしくはバグ。ウイルス。システムノイズ。呼び方はどれでもいいわ。私たちは定期的にそういったものを検知して弾いているの。免疫機能と似たようなものよ。でも、長門さんからエラーは一向に消えない。それって、彼女がエラーの存在を自発的に肯定していないと辻褄が合わないのよね」 なぜ俺を殺さずに電波な話を聞かせ続けるのか。それを強要するのか。まるで強権的な教師が睨みを利かせつつ授業をするような。精神的脅迫によって生徒に勉学を強制しているのと、この状況は果たして何が違う? 何も違わない。だとしたら朝倉の目的は俺を殺すことではない? 「覚えているかしら、昨年の丁度今頃。長門さんが大規模な世界改変を行ったでしょう? 今の長門さんもあの時と同じくらい、いいえ、それ以上のエラーデータを蓄積させているの。いつ、何を起こしてもちっともおかしくないわ。そして再度長門さんが機能不全を引き起こせば、今度こそ」 勝算は有るが、それにしたって賭けだった。朝倉が千両役者である可能性に俺は手持ちの全て――正しく文字通りの全てをベットし、少女の台詞の続きを阻むタイミングで行動に出た。 目を閉じて、口を横一文字に引き絞り、奥歯を噛み締めて、震える足を叱咤して。 俺は多少前のめりになりながらも一歩を踏み出した。それが意味する所は分かって貰えると思う。そう、俺の喉は朝倉が握り締めているサバイバルナイフによってスプラッタ映像よろしく貫かれる、そのはずだった。 身体のどこにも痛みは無い。 下ろした足の裏には砂よりももっと頼り甲斐の有る感触。コツンと、その音が水面に落とした雫のごとくやけに耳の奥で反響した。 「……貴方の評価を改めるわ。割と思い切りが良いのね」 目を開くとそこは砂漠からマンションのエントランスに様変わりしていた。相変わらず人間離れした早業である。声のした方を振り返ると朝倉が微笑んでいた。その手に刃物が握られていない事を確認して俺はようやく溜息を許された気分になれた。 「お前が何をしようとしてんのかがなんとなく理解出来てな。少なくとも、お前は俺に死なれちゃ困る側のヤツなんじゃねーかと」 「あら、そんな事は無いわ」 まるで学校に居た時と変わらぬ表情でもって――ったく、物騒な事を満面の笑みで言うんじゃないっつの。 「貴方を殺す事も選択肢の一つとしては十分に有り得るのよ。ただ、可能性を危険性が僅かに上回っているから貴方は生かされているだけなの。スリルの有る人生で良かったわね。日々、何の変化も無い私からすればとても羨ましいわ」 俺はそんなものを一度として注文した覚えはないのだが。 「なら、替わるか?」 「もう、意地悪」 何も知らない男子が見たら思わず恋に落ちて、その足で花屋に駆け込みそうな笑顔だった。谷口のヤツがころっと騙されるのにも頷ける。これは男子ならば皆平等に防御力無視の補正が掛かっちまうだろうさ。 挙句にクリティカルヒットの表示まで大盤振る舞いされそうだ。ま、俺は耐性が有るけどな。 どんなに可愛かろうが核弾頭に恋なんか出来るか。 「そんなの出来ないって、分かってるでしょ」 フグを比喩にしてはシンパに怒られそうに愛らしく頬を膨らませた朝倉涼子は、しかしその見てくれに騙されてはならない。彼女はシマリスではなくアンドロイドである。どっちかってーと青いタヌキの親戚だ。 「貴方にしろ、私にしろ。本当は替われたらいいんだけどね。そうしたらもっとシンプルに済むから」 「俺よりもよっぽど回転数の高い情報処理機関をお持ちのくせに、シンプルとはよく言ったモンだ。もしかして宇宙人流の冗談だったりするのか、それ」 「かもね」 朝倉涼子はそれだけ言って、元クラスメイトとしての側面を涼やかで明るい声音からすうっと消した。 「私が今日、ここに出て来た理由を貴方はどう推理したのか、聞かせてもらってもいい?」 宇宙人としての朝倉はどうやら答え合わせをご希望らしい。別に構わんぞ。ただし、採点は甘めで頼む。 「そっちじゃなくて、俺は殺されないと判断した根拠でもいいか」 「ええ」 「だったら、そうだな……」 エントランスに立ちっ放しで足が疲れた。際まで歩いていって白壁に背中から寄り掛かる。これで人差し指でも額に持って行けばそれで名探偵のポーズが完成するはずだが、多分俺がやっても格好が付いたりはしないので止めておくとしよう。 そういうのは古泉だけで十分だ。 「覚えているか。お前は一度俺を殺そうとしたよな」 実際は二度。いや、春の九曜絡みの件をカウントすれば三度である。が、初犯以外は諸々の事情からノーカウントとしておいた。 「忘れてないわよ。っていうか、私は基本的に物事を忘れられないの」 「その内に頭の中がパンクしちまいそうだな、それは」 女性らしい小さな頭蓋の中にぶち込まれた記憶の情報量はきっと国会図書館辺りと比しても遜色無いのだろうと俺は考えるが、物理的な限界だとかそういった常識をどこまで小馬鹿にしたら気が済むんだろうな、宇宙人連中は。 物理学者がコイツらの存在を知ったら世を儚んだ末の辞世の句が科学雑誌狭しと並ぶだろうよ。考古学者がオーパーツの不思議に頭を捻る、その何十倍の衝撃が世界に走るのか俺には皆目検討も付かんね。 きっとアインシュタイン先生も草葉の陰で爆笑だぜ。 「貴方たちの技術レベルで話されてもね」 「そうかい。で、話を戻すが、一度失敗してんのに同じ過ちを犯すのはオカしいんじゃないかと、これが俺が最初に感じた引っ掛かりだ」 「同じ過ち? いいえ、今回は情報封鎖も空間製作も抜かりは無いのだけれど。例え長門さんでもそう簡単には入って来れないはずよ」 そう言われてもなあ。宇宙的不可思議結界の出来不出来が俺に分かって堪るかって話で。つーか、地球人に分かるヤツが一人でも居るのだろうか? 「そんなモンは知らん。俺が言ってるのはお前が俺と長々お喋りしてた点だよ。時間を掛ければ助けが来る確率も上がる。それくらいは一年前の春で学習してんだろ」 「うっかり忘れちゃってたかも」 過去を忘れたりしないってついさっき、どの口が言っていやがったかは都合良く忘れているらしいな。ええい、小首を傾げようが騙されないから下手な小芝居は止めろ。あんまり面倒臭いとお前を無視して勝手に長門のトコまで行っちまうぞ。 「一回それで失敗しているにも関わらず今日再び会話に興じたのはなぜか――単純だ、お前は助けが来ても別に構わないと思っていた。違うか?」 佐々木に降霊していたホームズ先生が今度は俺にも降りてきたんじゃなかろうかってほど、すらすらと舌は動いた。ちなみにどうでもいい話でかつ当たり前の話だが、シャーロック・ホームズは実在する人物ではない。つまり非実在霊である。そういや、幽霊はまだSOS団に入ってないな。ハルヒならそっち方面も好みそうでは有るのだが。 朝倉は指先を拍でも取るように空中で揺らしながら、 「もしも助けが来ないって最初から分かっていたとしたら?」 と、言った。 「またお得意の異時間なんたらの同期ってヤツか」 俺の推理に溜息を吐く朝倉。妙に人間っぽい仕草だが、そこに「芸が細かいな」以外の感想を抱けなかったのはなぜか。単純だ。少女がどういった存在なのかを俺は中途半端に理解しているからだろう。朝倉が何をしていても笑っていても、俺にはそれがどこか奇異に見えていた。 ま、殺意だけはトラウマによる攻撃力アップの効果で本気本物としか思えない訳だが。 「同期? 違うわよ。そんな事するまでもないわ。ねえ、長門さんが軟禁されているって知っていてここに来たんじゃないの、貴方。だったら長門さんが助けに来るはずないじゃない」 …………あ。 あー……そりゃ、そうか。そうだよな。いや、でもほら、古泉と佐々木ならなんとかかんとか長門を呼んで来てくれるんじゃないかとも思ったんだ。言葉にするのも面映いが、こう見えて友達は信頼する方なんだよ。 「ああ、あの二人なら」 「まさか、古泉と佐々木に何かしたのか!?」 「そんな怖い顔しないで。あの二人はずっとあそこよ」 朝倉がすっと白く細い指を動かす。その先にはエレベータが……おや? なんかオカしいぞ、主にフロア表示の辺りが。十秒、二十秒、一分が過ぎても電光掲示板はアラビア数字の三と矢印を交互に流すばかりだ。 「貴方も時間凍結くらい経験が有るでしょう?」 少女は不敵に笑う。なるほど、さっきからエレベータが三階を動いていないのは朝倉の仕業か。時間凍結って事は古泉と佐々木には多分、自分達が足止めを食っている実感も有りはしないだろう。この間に俺が階段で追い抜いて先回りしていたら、アイツら的にはちょっとしたホラーにもなる訳だ。 「友達を信頼するのはいいけれど、少し私を見くびり過ぎね」 「……みたいだな。俺に助けが来ないのをお前は最初から知っていた――ってのは十分理解出来たよ。ま、アイツらに直接の危害を加えちゃいないんなら、それでいいさ」 慣れない事はするモンじゃないな。やはり俺に名探偵役は向いていないらしい。やれやれ。この件に関しちゃ自分の浅い考えを戒める事こそ有れ、古泉と佐々木には何の非も無い訳で。 「そう溜息を吐かないでよ。きっと半分は合っているから」 「半分?」 「あら、気付いていたんじゃないの。貴方の殺害はフェイク。なら、本来の私の目的も有るはずって。だからあの一歩を踏み出せたのでしょう?」 ああ、それか。そんなん簡単だ。 「簡単……ね。言うじゃない」 そう睨むな。本気じゃないと分かっちゃいるが、それでもお前の視線は二重の意味で痛いんだ。 「俺を殺すんじゃないなら、会話の方に目的が有ったんだろう。だが、すまんな朝倉。あのやり取りで結局何を言いたいのか、俺には正直よく分からなかった」 「ふうん」 朝倉が急速に俺から興味を失ったのはその濁らせた眼で分かった。 そして――そして、それがコイツの演技だというのも「手に取るように」分かったのは、その眼の奥に、濁った中にも隠し切れない光を見たからだ。 俺はこの眼を知っている。幾度と無く見てきたこの眼の意味を俺は、知っている。 期待。好奇心。希望。それは誰でもない、俺に対して。朝倉の話は俺にはほとんど理解出来なかった。それをはっきりと告げて尚、果たしてこの俺に何を期待するのか。ホームズ先生には逆立ちしたってなれない俺は、俺にも分かる事を口にするしかない。 「だから、会話に目的が有ったのならお前は失敗しているんだ。だが、お前は失敗している風にも見えない。ならば会話にも目的は無かったのか? ……ああ、そうだ。殺意もフェイクなら会話もフェイク」 では先の一件で俺の身に何が残ったのか。眼を逸らさずに少女を見つめる。続ける俺の言葉に朝倉の頬がほんの一、二ミリ震えたように見えた。能動的に。奇跡のように。 「お前の本当の目的は――俺に危機感を植え付ける事だろう。違うか?」 つまり、コイツは自分から憎まれ役を買い、そして昨今平和ボケしている俺の目を覚まさせようとしたんじゃないか、などと。 ああ多分、これが一番朝倉の好みそうな「合理的」な回答だ。 俺の直視に晒された少女はそれが作り物で有るという事実を嘲笑うように、悪いものでも食ったんじゃないかと俺が半ば本気で心配するくらいに、太陽が昇りアサガオが花綻ばすように、もしやコイツすらも一切の例外無くハルヒズムに感染したんじゃないかって具合に、そして――そして、 「それでもコイツは宇宙人なんだ」なんて周りに吹聴したところで笑い話にさえ取っては貰えない、そんな表情で、 「上出来よ」 と言ったのだった。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/6587.html
14,宇宙原産ブルーローズ 長門のマンションには何度か行ったことが有る。管理人のおっさんとも微妙な顔見知りだったし、入り口で手間取ることは無い――そのはずだった。 だが、実際は車から出て数歩足らずで俺の足は止まってしまっている。逸る気持ちは急制動を掛けられ、慣性の法則に従いたたらを踏んだ。 「……お前か」 マンション前には見知った背中の持ち主が佇んでいた。と言っても管理人のあの人とは似ても似つかない美少女だ。彼女は長袖の北高セーラに身を包み、この冬空の下でありながら防寒具の類を他に一切身に付けていなかった。通りすがりの赤の他人が見たら十人中五人くらいは怪訝さに眉を顰めるであろう出で立ちなれど、俺はそこに何の感慨も抱けなかった。これは加齢を根拠とする感受性の鈍化とはまた別の話だ。 その服装に理解が有るのは……これは残念ながらとでも言うべきなんだろうな。 防寒具を着ていないのはソイツには真実、必要ないから。そう、気温や体温などアイツにはどうとでもなるのだ。俺たちと違って。 この非常識さんめ。 ああ、ちくしょう。もし何かの手違いで本物の幽霊に行き遭ったとしても、それでもここまで俺の背筋を凍らせることはきっと出来やしないんだろうよ。全身が総毛立つとはまさに今の俺の事だ。体育の授業が有ったら躊躇わず見学を申請するくらいには気分も悪い。 「そ、意外でしょ」 超然という言葉の意味を体言する少女の立ち姿。凛と背筋の伸びた佇まいは例えるなら桔梗ってトコか。いやいや、似ても似つかないが薔薇ってのも大穴で有り得るだろう。美少女――だからこそサソリの尻尾が可愛く思えるような棘だって隠しているんだろうよ。 艶やかな腰丈の髪やスカートは時折吹く痛烈な北風にすらなびく様子がちっとも見られない。何をどうしていやがるのか。大気なんてものは世界に無きがごとくに振る舞うソイツ。マジで情けない話だが喉がグビリと鳴るのを抑えられない。 ――勿論、恐怖でだ。 「そうでもないな。なんとなく『来るだろうな』って予想はしてたんだ」 「それって有機生命体固有の予知能力?」 「いいや、ただの勘だ。俺を驚かせたかったってんなら、そいつは期待に添えなくて申し訳無い」 「ふうん、残念。でもまあ、いいわ」 少女はゆっくりと、焦らすように時間を掛けて首を後方に倒し、そして車を降りた俺たちの方を見つめた。 眼が合う。実物を見たことは無いが、にしたって蛙を睨み付ける蛇ってのはきっとあんな感じなんだろうぜ。女子中学生が抱く淡い恋心のような「もしかしたら」は当然の如く裏切られ、少女の見ているものは佐々木でも古泉でもなく――俺である。 どうして俺なんだ、と今更言い出すほど恥知らずではないつもりだが。しかし、俺とアイツの間の関係が縁だってんなら今すぐ縁切り寺に駆け込みたいね、マジで。 「あんまり遅いから待ちくたびれちゃったの、私」 勝ち気で明るい声は相変わらずだ。谷口曰くAAランクプラスの美少女は俺へと向けて歌うように笑う。 「遅い?」 「貴方が来るのを待っていたのよ、長門さんと一緒に」 元クラスメイトが玄関の自動ドアに右手を翳すと、それはセキュリティにと設けられたパスワード入力も無しに開いた。ま、そんなんは大して驚くことでもないが。っていうか、これくらいで一々驚いていたらSOS団には在籍していられないしな。 「さ、いつまでもそんな所にぼーっと立ってないで入ったら? 長門さんに用が有るんでしょう?」 そう促し、無防備にこちらへ背後を見せてマンションの中に入っていく少女。俺たちはその足取りを自然、目で追う形となった訳だが。丁度エントランスの自動ドアのレール辺りをソイツが歩き越えた時、俺の見ている前で陽炎のように少女の姿が不自然にあるいは超自然に歪んだ。今は十二月。建築物内外の気温差は確かに有ろうが、しかし光が歪むほどであってたまるか。 はあ、少しくらいカモフラージュしてもいいだろうに。何をって? 決まってんだろ。手品の種、もしくは落とし穴だよ。 「これ、完全に罠ですよ」 古泉が言うも、んなモンは言われんでも分かってる。あのマンションに入ったが最後、東西の物理学者が押し並(ナ)べて頭を抱える不思議空間にご招待ってんだろう。ただ、それにしたって長門の部屋に向かうにはトラップゾーンを避けちゃ通れんしな。回避出来ない罠なんてゲームだと顰蹙ものだぞ。しかも事前にバレバレなら尚更だ。 現実はゲームと違うなんてのくらいは分かっちゃいるが。ルールの有無が両者を分かつ一線だな。高校二年生という若さで不条理と書いて人生と読み替えるほど悟りたくはないもんだ。 「キョン、古泉くんは気構えをしておけって言っているのさ」 あのなあ佐々木、それも通訳して貰わんでも分かってるって。気構えなんてそれこそとっくのとうだ。 お前は知らんだろうが、あの歩き去った元クラスメイトとは何かと縁が有ってな。その前に立ってリラックスしろってのが軽く無理難題になっちまうくらい、俺の中で一、二を争うトラウマメイカなんだぜ、ああ見えて。 冗談じゃなく、死にかけたし。それも一度じゃないってんだから、ああ、我が身の不幸を嘆くしかない。 「気構えを幾ら重ねても気休めにしかならん」 なるようにしかならんのがどうにも歯痒い。運命ってヤツも俺の意思をもう少しくらい汲んでくれても罰は当たらんと思う訳だが、それこそ世界がハルヒプロデュースで成り立っちまっている以上、高望みか。 「用が有るのは多分、俺一人だ。古泉、分かってるとは思うが佐々木を頼む」 立ち止まっていた一歩を踏み出す。閻魔大王の前に歩き行く心持ちであったのは否めないが、しかしここで引き返す選択肢だとか俺には持ち合わせがない。だったら進むだけだ。一寸先が闇だろうと、虎穴だろうと。 「お任せ下さい。……あなたが時間を稼いでいる間に長門さんを連れて来るつもりですが、決して無理はなさらず」 「ああ。俺だって始末書の肩代わりなんかお断りだからな」 「では、ご武運を」 ユリウス・カエサルであれば腕を振り上げて「賽は投げられた」とでも宣言するんだろうこの場面を俺たちはこうもあっさり終わらせる。 「キョン、大丈夫なんだろうね?」 佐々木の声が背中に降る。さてね、これからどうなるかなんて俺には皆目見当も付かんよ。だけど、 「ま、なんとかなるだろ」 それは俺の偽らざる本心でもあったのだから始末に負えないとはこの事だぜ、ホント。 信頼と経験と、そして男子としての強がりをスパイスにしてだらしなく開きっぱなしのマンションの自動ドアを潜る。予測して覚悟していた頭痛や吐き気はなく、しかし代わりに、 「やっぱ、こうくるよな」 持ち上げた右足で踏みしめたのはタイルの床ではなくざらりとした砂粒だった。 視界は……いや、世界は一変していた。見渡す限りどこまでも続く砂地。これはもう砂漠と言うべきか。正面、そこに一人の少女が佇んでいる。 少女――朝倉涼子は俺の姿を認めると場違いなほど煌びやかに笑った。 「いらっしゃい。招待を受けてくれてとっても嬉しいわ」 「半強制で連行しといてよく言うぜ」 本来ならばここには何の変哲も無いマンションのエントランスが広がっているはずである。しかしどう言ったらいいのか、この流れでその「何の変哲も無い」エントランスのままであったのならばきっと俺は逆に驚愕していただろう。慣らされちまってんな、とは自分でも思う。 いつか、トンデモが当たり前と完全に入れ替わっちまったら誰が責任を取ってくれるのか。誰も取ってくれやしないだろうってのは間違いないと断言してしまえるのであるから、自分をしっかり持たないと。 「あら、その言い方は変よ。私はちゃんと『ここで帰ったら見逃してあげる』ってサインを送っていたつもりよ、こう見えて」 「ああ、そうかもな。だが、お前は俺たちが『ここで引き下がれる訳が無い』ってのにも気付いていたはずだ。違うか、朝倉?」 「どうかしら。あなたたち有機生命体が時として合理的でない判断をするのも、無謀でしかない決断を下すのも知識としては持っているけれど理解は出来ないのよね。この機会に聞いてみようかな。ねえ、あなたはどうしてそんなことをするの?」 やれやれだ。首を左右に振るジェスチャでそれを伝えると同時に佐々木と古泉の不在を確認する。よし、周囲に二人の姿は見られない。どうやら本当に朝倉の用は俺一人に集約されているらしい。頼むぜ、古泉、佐々木。首尾良く長門をここに連れて来てくれよ。 贅沢は言わないが、なるべく早くな。 「お前には分からないさ」 「……そっけないのね」 どの口が言いやがる。過去、命を狙ってきたようなヤツ相手にフランクになれるのは漫画やアニメの中だけだ。現実はこんなモンさ。 「でもな、きっと長門なら分かってくれる。いや、きっとじゃない。絶対だ。アイツなら分かる。そっちに聞いてみたらどうだ?」 朝倉の眉が俺の挑発に反応してぴくりと跳ね上がった。豊かな表情を持ち、まるで人間みたいな少女だ。対しての俺の長門は世界無表情選手権シード枠で、人間らしさがとても希薄に見えたりもする。「どちらかがアンドロイドでどちらかが人間です。さてどちらがどちらでしょう?」みたいな質問をしたら百人中九十六人までもが朝倉の方が人間だと、そう回答するだろう。 でも、それでも百人中四人は長門を選ぶ。 ハルヒは。古泉は。朝比奈さんは。 そして、俺は。 「長門はお前とは違うからな」 アイツの友達で、仲間だからだ。 「違わないわよ。長門さんは対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェイス。私と同じ。何を言っているの?」 朝倉が幼い子供の間違いを正すように俺を諭す。本当に朝倉には分からないのだ。長門と自分の違い、ってヤツが。俺にも上手く言葉に出来ない。いや、言葉にしたら途端に陳腐になっちまう。 長門には心が有る、って。 「朝倉。お前に自分の意思は有るか?」 「意思? それも理解出来ない概念ね」 「だろうな。お前は上の言う事をこなすだけだ。長門だって大体そんな感じだしさ。出会ったばっかの頃は本気でその傾向が顕著だった」 「今はそうではないとでも言いたいの?」 今年の春には俺はもう当たりを付けていた。直接聞いた事は無いが古泉だって気付いちゃいるんだろう。長門が俺たちの前に現れた意味と、なぜ長門だったのかの答え。出会いたての折、少女は言った。ハルヒに近付いたその目的は自律進化の可能性だと。 「気付いているはずだ、お前も、『お前ら』も。違っていることには気付いていないとおかしい。ただ、何が違ってしまったのかが分からない、理解出来ないから同じだと思い込んじまってる。なあ、朝倉」 「何?」 「SF小説は好きか?」 「好きとか嫌いとか、そんなものが有ると思うの? 優先順位で言えば、」 ああ、もういい。その口振りで大体は分かった。 そして、ここまでのやり取りでおおよそは掴めたし。 「だったら今度、長門におすすめを何冊か貸して貰うといい。俺の予想が確かなら、それがお前らが必死になって探し回ってる自律進化の可能性とやらだ」 思いっきりベタな代物を銀河規模で要求する宇宙人どもだとほとほと呆れ返る。長門が無口キャラの文芸部員だってのはハルヒの望んだ通りの設定な訳だが、しかしそれは果たして予定調和だったりするのだろう。閉塞する未来を打ち砕くには読書狂の宇宙人が必要だったんだ。ま、これは今になって思う結果論だが。 「……ねえ、もしかして馬鹿にしてる?」 「少しな。なんでそんなに賢いのに、こんな簡単なことに気付けないんだとは思ってる。そう怒るなよ。いや、怒れないんだったか、お前は。感情とか無いんだもんな」 俺の言葉に朝倉は「一切の表情を消し」て「微笑ん」だ。その無表情は長門のようでもあり、長門とは似ても似つかないとも感じる。俺は知っている。朝倉の顔には能動的なあの二ミリが決定的に足りないんだ。作り物じゃない、あの奇跡の二ミリメートルが。 「長門は変わったぞ」 朝倉の視線が突き刺さるも何度だって言ってやる。いつの間にか俺は時間稼ぎが目的の問答だってのをすっかり忘れてしまっていた。友達を誇るってのはそんだけ気持ちがいいものなんだろう。 「アイツは自分から未来を見るインチキを放棄した。それが決定的で確定的な全てだ、朝倉」 「インチキ? ああ、それって異時間同位体との同期のことよね、きっと。確かに私にはまるで分からないわ。長門さんの行動はエラーとしか考えられない。どうして自分の機能に自分で制限を掛けるのかしら、彼女」 俺に向けてか長門に向けてか。違うな。多分、自分自身に向けて。そう質問する朝倉ももしかしたら変わり始めているのかも知れなかった。が、俺にはそんな朝倉になんと言って感情の理解を促せられるのか分からない。そういうのは俺の分野じゃないんだ。ま、言っても俺に分野も専門も有りはしないが。 ただの高校生にそんなモノを求める方が間違ってるさ。そうだろ? 「詳しいことは俺も分からんから、なんとなくこうなんじゃないかって予想で話すが」 そう、例えるなら、 「長門にとってその『同期』とやらは羽みたいなモンなんだろうさ」 似合わない事を言ってんなあ、と思う。いわゆる「キャラじゃない」ってヤツだが、キャラ作りなんて特別意識した事も無いからどうでもいいか。 「羽? それって空を飛ぶための?」 「ああ。俺たちには当ったり前だが、んなモンはない。空なんか飛べない。でも、お前らは持っていた。空を飛べるんなら俺たちとは生きていく場所が違って当然だ」 雲の上か、天空の城か。重力に縛られないなら、こんなせまっくるしい地上を寝床に選ぶ方が馬鹿だ。 どいつもこいつも馬鹿ばかりだ。 でも俺はそんな馬鹿が巻き起こす馬鹿騒ぎってのだってたまになら嫌いじゃない。そもそもハルヒの周囲に居るって時点で筋金入りの馬鹿なんだ。俺も、そしてそれは長門も。 あの瞳に満載された液体ヘリウムは今にも溢れ返りそうな好奇心を必死にひた隠すための冷却材であるのかも、なんて俺はたまに思う訳だ。 「そうだな、俺も悪いんだろうよ。深く考えずに長門と友達になっちまったこと」 「長門さんはあなたたち地球人類と並列になろうとしたって言いたいの? そんなの有り得ないわ」 有り得ないの根拠はなんだ、朝倉? 「有機生命体のような自己連続性に立脚しない不安定な意志決定機能を私たちは持っていないの。個体の区別は付けても一時的ですら差別はしないわよ」 そんな、辞書引いて目に付いた単語を適当に配置したような台詞を吐かれてもな。友情や感情なんて理解出来ないなどと俺なりに出来る限り頑張って意訳してみたが、もし間違っていてもクレームの報告先は俺じゃないだろ、コレ。 「友達になったと思っているのは俺だけだ、ってか」 「長門さんにとっての貴方の価値は最初から不変のはずよ。涼宮さんに最も近しい特別な背景を持たない地球人類、それが貴方の全て」 宇宙製デジタルアンドロイドの少女は言う。でも、本当にそうか? いやいや、俺が普通普遍の一般人ってトコに異論は無い。そうじゃなくて。 長門が他者をどう思っているか、なんてそんなの本当のところは長門にしか分からんが。けれど誰もを特別に思わないなんて、平等に無関心だなんて。 それは無理が有るだろ、朝倉よ。 「涼宮ハルヒが文芸部室にてSOS団なる珍妙なクラブ活動を発足した時、俺はその目的を問うたんだけどな」 「何の話?」 朝倉が首を捻る。いいから聞けって。 「そん時、あの馬鹿は俺にこう返した。『宇宙人、未来人、超能力者を探し出して一緒に遊ぶ』のだ、とな。それがハルヒの願いだ。アイツの願いは」 涼宮ハルヒの願望は、 「それが本心である限り現実になる」 宇宙人だから友情を持てない? 人と仲良くなれない? うるせえ。んな訳有るか。 ハルヒが一緒に遊びたいと願ったんだ。片方だけが楽しいんじゃ、それは遊ぶとは言わない。少なくとも俺の知っている日本語ではそうはなってない。実は常識人な一面も持ち合わせているらしいハルヒもそこのとこは間違えないようになった。 だったら長門は俺たちと楽しく、そして仲良く遊べるはずなんだ。それを願うあの馬鹿が居るんだから。 俺たちが心から仲良くなれないようなら、そんな世界は嘘っぱちだ。 「長門が同期を絶ったのは――羽を切ったのは俺たち対等になりたかったとか、地球人と同じになりたかったとか、そういう立場とか打算とかじゃないだろ、きっと」 喋りながらまるで絵本でも読み聞かせているような心持ちに陥りかけたのは、目の前に居る朝倉が少しだけ、気の迷いってくらいに二ミリメートル程度、出会ったばかりの頃の長門とダブって見えたからだった。 「未来は分からないからこそ面白い。そんなハルヒズムに悪影響を受けたんじゃねーのか、長門も」 良くも悪くも影響力の強い女。まるで恒星のように周りを有無を言わさぬ引力で巻き込んで、あっという間に銀河系を作り上げちまったとは俺の印象。 それが俺たちの戴く団長サマである。 「……やっぱり、貴方はそう考えるのね」 そう言った宇宙人の瞳が俺を真っ直ぐに貫き、背骨を生理的嫌悪感が上から下までバケツリレーのように這い回る。コイツに対する態度で何かを決定的に間違ったと、経験によって培われた俺の常人離れした第六感が狂ったんじゃないかって具合に警鐘を打ち鳴らす。 「それって」 なんだ、俺は何を言った? 何をしくじった? コイツら宇宙人が求めている最終目的に関する重大なヒントを教えてやったってのに、いわば恩人の俺に対してどうして朝倉は明確な敵意を向けている? 「つまり、もう貴方は用無しってコトじゃない?」 その台詞が合図のように朝倉の姿は消えた。一瞬、このよく分からない空間に一人で置いていかれたのかと焦ったが、それ以上に俺を焦燥に駆り立てる状況に陥っていると気付いた時にはもう、身動き一つ出来なくなっていた。 喉仏が上下に動くそれだけで冷たい金属質の何かが俺に接触する。これが正しく紙一重。いつかのトラウマが色鮮やかに甦った。 「あさ……くらっ……?」 「本当は気付いていたのよ、長門さんの変化に。それでも私が貴方の前で何も知らない振りをした理由、分かる?」 失念していた。いや、あの春の出来事はジェットコースタ過ぎて正直仔細を覚えていないというのも有った。それでも……なんなんだ、さっきから付き纏うこの違和感は。 朝倉が持つサバイバルナイフの切っ先は正確に俺の喉を狙っている。これではまともに会話も出来やしない。説得なんて以ての外だ。無理に喉を動かせば刃が皮膚を切り裂くのは想像に容易く、そしてそれは場所が場所だけに致命傷にも成り得るかも知れず。 緊張に唾を飲み込む事すら俺には許されちゃいなかった。 俺の肩口を越えてすらりと長く地面に対して平行に伸びた腕は北高セーラの長袖に覆われている。その手には逆手にサバイバルナイフが握られ、ミリ単位の前進すら俺に許さない。動けば殺すと、この状況下でそれを理解出来ない馬鹿はそうはいまい。 背後から靡く甘ったるい花の香りだけが、見事に空気を読んでいないのが殊更に今の非常識を演出していた。 朝倉は言う。 「貴方が長門さんをどう評価しているか、正しく評価出来ているかが知りたかったのよ。私と長門さんは鏡。表裏でしかないって、ねえ、前にこれ言わなかったかしら?」 イエスもノーも告げられやしないこんな状況で質問されても実際問題どうリアクションを取ればいいんだ、俺は。なんかホラー映画で殺人鬼がこれから犠牲者にならんとする相手に対して意味の分からん事を口走って一人で納得するシーンに通ずるものをさっきからひしひしと感じているのだが。 冷や汗が流れ落ちるのと汗が一気に引くのはどちらが正しいのかと言えば、俺の場合はどうやら後者であったらしい。 「長門さんは変わったわ。それは涼宮さんのせいでもあるし、貴方たちのせいでもある」 耳元に息が掛かる。 「さっき言ったわね、自己連続性に立脚しない不安定な意志決定機能。私たちが本来持たないそのプログラムが、けれど彼女の中には確かに存在している。とても非合理的なものよ」 朝倉は……何を言っている。何をしている? 客観的に見れば俺の喉元にナイフを突き付けて意味不明な事を口走っているとなるが、しかしだ。 「無害なら私だって放っておくけれど、残念ながらそう言える類ではないみたい。扱いを誤れば私たちの存在を根底ごと引っ繰り返せるんじゃないかとも思っている」 ちょっと待て。この状況、とても非合理的じゃないか? だって、そうだろ。殺すつもりならば問答も会話も一切合切必要が無い。蛇の生殺しみたいな悪趣味は止めてさっさとやればいいし、そもそも何の力も持たない俺くらい楽にどうとでも出来るだけの力を朝倉は持っている。勿論、サクッと殺されては俺の方は堪ったものではないが、とりあえずそこは置いておいて。 一度、朝倉は俺の殺害を試みて失敗しているのだ。あの時だって勿体付けずに実力行使していれば長門が間に合うことも無かった。あそこでゲームオーバーすらマジで有り得た話。だったらそれを反省して余計なお喋りを止め、即実行に移すべきではないか。 俺がもし朝倉で、俺の殺害を本気で考えているのならまずそうする。 「エラー、もしくはバグ。ウイルス。システムノイズ。呼び方はどれでもいいわ。私たちは定期的にそういったものを検知して弾いているの。免疫機能と似たようなものよ。でも、長門さんからエラーは一向に消えない。それって、彼女がエラーの存在を自発的に肯定していないと辻褄が合わないのよね」 なぜ俺を殺さずに電波な話を聞かせ続けるのか。それを強要するのか。まるで強権的な教師が睨みを利かせつつ授業をするような。精神的脅迫によって生徒に勉学を強制しているのと、この状況は果たして何が違う? 何も違わない。だとしたら朝倉の目的は俺を殺すことではない? 「覚えているかしら、昨年の丁度今頃。長門さんが大規模な世界改変を行ったでしょう? 今の長門さんもあの時と同じくらい、いいえ、それ以上のエラーデータを蓄積させているの。いつ、何を起こしてもちっともおかしくないわ。そして再度長門さんが機能不全を引き起こせば、今度こそ」 勝算は有るが、それにしたって賭けだった。朝倉が千両役者である可能性に俺は手持ちの全て――正しく文字通りの全てをベットし、少女の台詞の続きを阻むタイミングで行動に出た。 目を閉じて、口を横一文字に引き絞り、奥歯を噛み締めて、震える足を叱咤して。 俺は多少前のめりになりながらも一歩を踏み出した。それが意味する所は分かって貰えると思う。そう、俺の喉は朝倉が握り締めているサバイバルナイフによってスプラッタ映像よろしく貫かれる、そのはずだった。 身体のどこにも痛みは無い。 下ろした足の裏には砂よりももっと頼り甲斐の有る感触。コツンと、その音が水面に落とした雫のごとくやけに耳の奥で反響した。 「……貴方の評価を改めるわ。割と思い切りが良いのね」 目を開くとそこは砂漠からマンションのエントランスに様変わりしていた。相変わらず人間離れした早業である。声のした方を振り返ると朝倉が微笑んでいた。その手に刃物が握られていない事を確認して俺はようやく溜息を許された気分になれた。 「お前が何をしようとしてんのかがなんとなく理解出来てな。少なくとも、お前は俺に死なれちゃ困る側のヤツなんじゃねーかと」 「あら、そんな事は無いわ」 まるで学校に居た時と変わらぬ表情でもって――ったく、物騒な事を満面の笑みで言うんじゃないっつの。 「貴方を殺す事も選択肢の一つとしては十分に有り得るのよ。ただ、可能性を危険性が僅かに上回っているから貴方は生かされているだけなの。スリルの有る人生で良かったわね。日々、何の変化も無い私からすればとても羨ましいわ」 俺はそんなものを一度として注文した覚えはないのだが。 「なら、替わるか?」 「もう、意地悪」 何も知らない男子が見たら思わず恋に落ちて、その足で花屋に駆け込みそうな笑顔だった。谷口のヤツがころっと騙されるのにも頷ける。これは男子ならば皆平等に防御力無視の補正が掛かっちまうだろうさ。 挙句にクリティカルヒットの表示まで大盤振る舞いされそうだ。ま、俺は耐性が有るけどな。 どんなに可愛かろうが核弾頭に恋なんか出来るか。 「そんなの出来ないって、分かってるでしょ」 フグを比喩にしてはシンパに怒られそうに愛らしく頬を膨らませた朝倉涼子は、しかしその見てくれに騙されてはならない。彼女はシマリスではなくアンドロイドである。どっちかってーと青いタヌキの親戚だ。 「貴方にしろ、私にしろ。本当は替われたらいいんだけどね。そうしたらもっとシンプルに済むから」 「俺よりもよっぽど回転数の高い情報処理機関をお持ちのくせに、シンプルとはよく言ったモンだ。もしかして宇宙人流の冗談だったりするのか、それ」 「かもね」 朝倉涼子はそれだけ言って、元クラスメイトとしての側面を涼やかで明るい声音からすうっと消した。 「私が今日、ここに出て来た理由を貴方はどう推理したのか、聞かせてもらってもいい?」 宇宙人としての朝倉はどうやら答え合わせをご希望らしい。別に構わんぞ。ただし、採点は甘めで頼む。 「そっちじゃなくて、俺は殺されないと判断した根拠でもいいか」 「ええ」 「だったら、そうだな……」 エントランスに立ちっ放しで足が疲れた。際まで歩いていって白壁に背中から寄り掛かる。これで人差し指でも額に持って行けばそれで名探偵のポーズが完成するはずだが、多分俺がやっても格好が付いたりはしないので止めておくとしよう。 そういうのは古泉だけで十分だ。 「覚えているか。お前は一度俺を殺そうとしたよな」 実際は二度。いや、春の九曜絡みの件をカウントすれば三度である。が、初犯以外は諸々の事情からノーカウントとしておいた。 「忘れてないわよ。っていうか、私は基本的に物事を忘れられないの」 「その内に頭の中がパンクしちまいそうだな、それは」 女性らしい小さな頭蓋の中にぶち込まれた記憶の情報量はきっと国会図書館辺りと比しても遜色無いのだろうと俺は考えるが、物理的な限界だとかそういった常識をどこまで小馬鹿にしたら気が済むんだろうな、宇宙人連中は。 物理学者がコイツらの存在を知ったら世を儚んだ末の辞世の句が科学雑誌狭しと並ぶだろうよ。考古学者がオーパーツの不思議に頭を捻る、その何十倍の衝撃が世界に走るのか俺には皆目検討も付かんね。 きっとアインシュタイン先生も草葉の陰で爆笑だぜ。 「貴方たちの技術レベルで話されてもね」 「そうかい。で、話を戻すが、一度失敗してんのに同じ過ちを犯すのはオカしいんじゃないかと、これが俺が最初に感じた引っ掛かりだ」 「同じ過ち? いいえ、今回は情報封鎖も空間製作も抜かりは無いのだけれど。例え長門さんでもそう簡単には入って来れないはずよ」 そう言われてもなあ。宇宙的不可思議結界の出来不出来が俺に分かって堪るかって話で。つーか、地球人に分かるヤツが一人でも居るのだろうか? 「そんなモンは知らん。俺が言ってるのはお前が俺と長々お喋りしてた点だよ。時間を掛ければ助けが来る確率も上がる。それくらいは一年前の春で学習してんだろ」 「うっかり忘れちゃってたかも」 過去を忘れたりしないってついさっき、どの口が言っていやがったかは都合良く忘れているらしいな。ええい、小首を傾げようが騙されないから下手な小芝居は止めろ。あんまり面倒臭いとお前を無視して勝手に長門のトコまで行っちまうぞ。 「一回それで失敗しているにも関わらず今日再び会話に興じたのはなぜか――単純だ、お前は助けが来ても別に構わないと思っていた。違うか?」 佐々木に降霊していたホームズ先生が今度は俺にも降りてきたんじゃなかろうかってほど、すらすらと舌は動いた。ちなみにどうでもいい話でかつ当たり前の話だが、シャーロック・ホームズは実在する人物ではない。つまり非実在霊である。そういや、幽霊はまだSOS団に入ってないな。ハルヒならそっち方面も好みそうでは有るのだが。 朝倉は指先を拍でも取るように空中で揺らしながら、 「もしも助けが来ないって最初から分かっていたとしたら?」 と、言った。 「またお得意の異時間なんたらの同期ってヤツか」 俺の推理に溜息を吐く朝倉。妙に人間っぽい仕草だが、そこに「芸が細かいな」以外の感想を抱けなかったのはなぜか。単純だ。少女がどういった存在なのかを俺は中途半端に理解しているからだろう。朝倉が何をしていても笑っていても、俺にはそれがどこか奇異に見えていた。 ま、殺意だけはトラウマによる攻撃力アップの効果で本気本物としか思えない訳だが。 「同期? 違うわよ。そんな事するまでもないわ。ねえ、長門さんが軟禁されているって知っていてここに来たんじゃないの、貴方。だったら長門さんが助けに来るはずないじゃない」 …………あ。 あー……そりゃ、そうか。そうだよな。いや、でもほら、古泉と佐々木ならなんとかかんとか長門を呼んで来てくれるんじゃないかとも思ったんだ。言葉にするのも面映いが、こう見えて友達は信頼する方なんだよ。 「ああ、あの二人なら」 「まさか、古泉と佐々木に何かしたのか!?」 「そんな怖い顔しないで。あの二人はずっとあそこよ」 朝倉がすっと白く細い指を動かす。その先にはエレベータが……おや? なんかオカしいぞ、主にフロア表示の辺りが。十秒、二十秒、一分が過ぎても電光掲示板はアラビア数字の三と矢印を交互に流すばかりだ。 「貴方も時間凍結くらい経験が有るでしょう?」 少女は不敵に笑う。なるほど、さっきからエレベータが三階を動いていないのは朝倉の仕業か。時間凍結って事は古泉と佐々木には多分、自分達が足止めを食っている実感も有りはしないだろう。この間に俺が階段で追い抜いて先回りしていたら、アイツら的にはちょっとしたホラーにもなる訳だ。 「友達を信頼するのはいいけれど、少し私を見くびり過ぎね」 「……みたいだな。俺に助けが来ないのをお前は最初から知っていた――ってのは十分理解出来たよ。ま、アイツらに直接の危害を加えちゃいないんなら、それでいいさ」 慣れない事はするモンじゃないな。やはり俺に名探偵役は向いていないらしい。やれやれ。この件に関しちゃ自分の浅い考えを戒める事こそ有れ、古泉と佐々木には何の非も無い訳で。 「そう溜息を吐かないでよ。きっと半分は合っているから」 「半分?」 「あら、気付いていたんじゃないの。貴方の殺害はフェイク。なら、本来の私の目的も有るはずって。だからあの一歩を踏み出せたのでしょう?」 ああ、それか。そんなん簡単だ。 「簡単……ね。言うじゃない」 そう睨むな。本気じゃないと分かっちゃいるが、それでもお前の視線は二重の意味で痛いんだ。 「俺を殺すんじゃないなら、会話の方に目的が有ったんだろう。だが、すまんな朝倉。あのやり取りで結局何を言いたいのか、俺には正直よく分からなかった」 「ふうん」 朝倉が急速に俺から興味を失ったのはその濁らせた眼で分かった。 そして――そして、それがコイツの演技だというのも「手に取るように」分かったのは、その眼の奥に、濁った中にも隠し切れない光を見たからだ。 俺はこの眼を知っている。幾度と無く見てきたこの眼の意味を俺は、知っている。 期待。好奇心。希望。それは誰でもない、俺に対して。朝倉の話は俺にはほとんど理解出来なかった。それをはっきりと告げて尚、果たしてこの俺に何を期待するのか。ホームズ先生には逆立ちしたってなれない俺は、俺にも分かる事を口にするしかない。 「だから、会話に目的が有ったのならお前は失敗しているんだ。だが、お前は失敗している風にも見えない。ならば会話にも目的は無かったのか? ……ああ、そうだ。殺意もフェイクなら会話もフェイク」 では先の一件で俺の身に何が残ったのか。眼を逸らさずに少女を見つめる。続ける俺の言葉に朝倉の頬がほんの一、二ミリ震えたように見えた。能動的に。奇跡のように。 「お前の本当の目的は――俺に危機感を植え付ける事だろう。違うか?」 つまり、コイツは自分から憎まれ役を買い、そして昨今平和ボケしている俺の目を覚まさせようとしたんじゃないか、などと。 ああ多分、これが一番朝倉の好みそうな「合理的」な回答だ。 俺の直視に晒された少女はそれが作り物で有るという事実を嘲笑うように、悪いものでも食ったんじゃないかと俺が半ば本気で心配するくらいに、太陽が昇りアサガオが花綻ばすように、もしやコイツすらも一切の例外無くハルヒズムに感染したんじゃないかって具合に、そして――そして、 「それでもコイツは宇宙人なんだ」なんて周りに吹聴したところで笑い話にさえ取っては貰えない、そんな表情で、 「上出来よ」 と言ったのだった。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/6061.html
15,フリープレイ(R) 呆けた人間に有事を理解させるにはショック療法が一番手っ取り早いなんてのは経験から言って間違いじゃない。それに朝倉は急進派だしな。急いては事を仕損じると昔から言うが、しかし今回に限れば少女の目論見は成功に終わったと言ってやってもいいだろう。 お陰で大分目が覚めた。 人の出入りが奇跡的に無いマンションのエントランスは冬でありながら、その体感気温を上昇させ続けていた。心臓を始めとして血管一本一本に至るまで血と共にカンフル剤が巡っているように脈拍は速い。これは俺の意識の在り方の違いでしかないのだろうが。 昨日までとは違う。ついに「始まった」、そう直感的に理解する。具体的に何が始まったかは朝倉にでも聞かないと只の一般人である俺には分からない。だけどもう、何かが確かに始まっているというそれだけはこんな俺にも言い切れた。 十二月、クリスマス。ワールドエンド。今年もまた非常識が俺の周りに吹き荒れている。毎年恒例としちゃ悪趣味で、でもってそれをどこか楽しんでいる節すら有る俺は無気力に成り切れない好奇心旺盛な年頃の例に漏れないらしい。 台風の目を探しに今すぐ走り出したい気持ちを抑えて朝倉の次の言葉を待った。じっと俺を見つめるその先で少女は天井の明かりを見つめている。シャミセンがたまにああして何も無い中空を見つめている事が有るも、それとはまた毛色が違うだろう。 たまに長門もアレをやってる事から、母船との交信だろうと当たりを付ける。一分ほど経って朝倉は通信を切ったのか目線をこちらに移した。 「お待たせ。待った?」 少女の首の動きに合わせて艶めく長い髪が鮮やかに踊る。しまったと後悔した時には既に遅く、俺は脊髄反射で軽口を叩いてしまっていた。 「今の台詞、初デートに意気込み過ぎて服選びに熱中していたら遅刻しちまった部活の後輩ってシチュエーションでもう一回頼む」 ……宇宙人の視線が途端にキツくなる。それに合わせて脇腹の辺りに幻痛が再来。こっちが悪いのは重々承知だが、しかしてそうやってトラウマを直接触るのはどうか止めて頂きたい! 少女は人生に疲れた中間管理職のおっさんみたいな悲哀に満ち満ちた溜息を一つ吐いた。 「まだ危機感が足りていないみたいね」 ヤバい……死ぬ。 朝倉の手の中にバタフライナイフが構築されるのは時間の問題だったが、それよりは俺の謝罪の方が早かったのでなんとか事なきを得た。ああ、朝倉の言う通り。これじゃ人生本当に綱渡りじゃないか。 「ただの冗談だ。っつーか、条件反射みたいなモノだからどうか広い心で大目に見てくれ。……それよりも朝倉」 「何?」 「さっきは誰とテレパシ会話してたんだ? まさか、長門か?」 殺意とつまらない話題はさっさと逸らすに限る。誰よりもお前が言うなという声がどこからか聞こえてきたするが、それは黙殺。 「いいえ、喜緑さん。もう少しでここに来るそうよ」 ああ、そうか。彼女もこの宇宙人御用達マンションの住人だったな。彼女にも聞きたいことは有る。何を思ってあのバーガーショップで俺に接触してきたのか。あの時、彼女が俺にくれたメッセージは長門に極力負担を掛けないように、と……、 「ちょっと待ってくれ」 「どうしたの、突然怖い顔をして」 「彼女は今までどこに行っていたんだ?」 長門は自室に軟禁されていた。そして、そういった場合の長門の代役である朝倉はこのマンションに居る。だったら喜緑さんの出番だ。まるで初めてのおつかいを見守る母親のようにそれとなーく物陰から俺を見守るのが宇宙人の基本労働であるらしい。いつもなら何やってやがるんだか、と呆れ返る訳だが。 『それが私の役割ですから』。 役割を放棄してまで、彼女は今現在何をしているというのか。 「あ」 なるほど……朝倉に殺されかけた時に俺が感じた、あの違和感の正体はこれか。 宇宙的不可思議結界に保護対象が閉じ込められたってのに、喜緑さんはいつまで経っても助けに来なかった。長門の代役は朝倉だけじゃないのだから、それでは確かにオカしい。 「喜緑さんの名誉の為に言っておくけど彼女だって遊んでいた訳じゃないわ。大方、彼女の監督不行届を貴方は非難したかったのでしょうけれど。けど、残念ね。彼女は仕事。今日一日、ずっと追跡して監視していたそうよ。ご苦労な事よね。私なら絶対にイヤ」 そう言って朝倉は大袈裟に首を振る。追跡? 監視? お前ら一体何をやって……何を知っていやがるんだ。 「誰を? 誰を追跡して監視してたんだ、喜緑さんは?」 ハルヒか、朝比奈さんか。朝比奈さんだとしたら果たしてどっちだ? 未来から来た方か――って、二人とも未来から来た朝比奈さんだった。ええい、ややこしい。 朝比奈さん(大)が監視対象ってのに一点賭けの予想をした俺だったが、事態はいつだって予想を超える。まあ、ハルヒに出会ってからはむしろ予想通りに事が進む方が少ない。 それも常識外れの方向で。 「あら、貴方も会ったんじゃないの? 喜緑さん、途中で貴方と大人の方の朝比奈さんを見掛けたって言ってたわよ」 「途中? 途中ってのは尾行の途中だよな」 そう言や俺も今日のいつだったか尾行調査に勤しむ探偵のような真似をしちまったんだが、果たしてアレはいつだったか。悩み込むほどでもなく、記憶の糸は案外容易く手繰る事が出来た。そうそう、朝比奈さん(小)が友達と歩いていた所に遭遇したんだっけな。 午後三時過ぎ、商店街アーケード下でだ。でもって朝比奈さん(大)に出会って、そこから俺たちは真っ直ぐ駅前の喫茶店。喜緑さんが俺を見掛けたってのはこの辺りの話だろうな。 勿論、道すがら通行人とは多かれ少なかれすれ違っているが、しかし宇宙人がそんな名前も知らない誰かを尾行しているってよりは朝比奈さん(小)を尾行していたと、こう考えるのが一番自然だと俺は思う。 だが……なぜ? 朝比奈さん(小)は未来人だ。それは間違いない。けれど、こう言ってはなんだが彼女にそこまでの――宇宙人がマークする程の価値が有るだろうか? 未来から来たアドバンテージを、しかし最低限度しか持ち合わせていないのが彼女のウリだろ? 「……お前ら、朝比奈さんを尾行してどうするつもりだ? もしかして彼女がワールドエンド・クリスマスの原因だとか言い出すんじゃないだろうな」 「あら、喜緑さんが監視しているのは朝比奈さんではないわよ」 「そうなのか?」 「ええ。ただし、今回の騒動の、彼女が原因の一端ではあるけれど。一緒に歩いていた女の子が居なかったかしら?」 「居たな、確かに。えーと、黄色のリボンで髪を括った子だろ」 つーか、最早それくらいしか特徴を覚えてない。直後に起きたゴージャス・アサヒナによる腕組みの感触が衝撃的過ぎて記憶の細部を持って行ってしまったのだ。まあ、これは仕方が無いだろう。 朝倉は俺の回答に頷くと、デフォルトの微笑みでもって爆弾発言を噛ましてくれた。 「彼女、未来人よ」 「は?」 高校二年生も折り返しを過ぎたここに来てまさかの新キャラ投入である。何考えてんですか、朝比奈さん(大)。 「未来人、だって? そんなモン誰も追加注文しちゃいないぞ」 思わずそう言った後で考え直す。もしやまたハルヒの仕業か? 朝比奈さんが今年度いっぱいで卒業するという厳然たる事実を加味すれば、アイツが未来属性を持つ交代要員を求めた可能性は決して否定出来ない。 「あのね。誰が呼んだのかとか、そんなのはどうでもいいの。この時間軸に居るのは事実なのだから。ねえ貴方、あの未来人を早くなんとかしてくれない?」 お願い、と。いつか見た合掌の成り損ないを朝倉は俺に披露した。なんとかしろとは具体的に俺に何を求めているのか等、質問したい事は山と有ったがそれよりも、だ。 『何しろ、今回は願望実現能力の持ち主が相手のようなので』。 ああ、そうさ。この朝倉の口振りから言ってほぼ間違いない。 「その未来人とやらの名前は?」 俺の質問に答える声は検討違いの方向から聞こえた。 「わたしはわたぁし」 嘘だろ……おい。同じ台詞を俺は以前にも聞いた事が有る。「あの」舌っ足らずを再現しようとしたのは、これはもう発声元に確認を取るまでもない。それにしたって声が違う。全然違う。その声からはハルヒ譲りの溌溂さがごっそりと抜け落ちている。以上、別人で間違いあるまい。だが……、 だが、一体他にどこの誰が「渡橋(ワタハシ)」を名乗るというのか。 「あら、お帰りなさい。喜緑さんから聞いて、もうそろそろ帰ってくる頃だと思っていたわ。一緒に出かけた朝比奈さんは?」 宇宙人が入り口に向けて声を掛ける。闖入者の姿を一目見ておかなければと動かした首は、けれど俺の持ち物では無いみたいに、それこそ錆び付いた蝶番みたいに重たかった。 「みくるちゃんならすぐそこの角で別れたわよ」 そこに居たのは少女だった。それもすっげえ美少女だった。身内贔屓を抜きに見てすら超ハイレベルな我らがSOS団女子と俺の視線の先の美少女は横一列に並べても見劣りしないだろう。黄色のリボンで朝倉以下朝比奈さん以上って長さの髪を括っている。 しかし、ここで俺が特筆すべきは決してそのリボンでは無かった。 眼が。 「涼子ちゃん、玄関先で待っててくれたんだ。……で、何これ? なんでここにソイツが居るの? 嫌がらせ?」 渡橋を名乗るその少女。少女の持つアーモンド型の大きな瞳は――瞳の中の銀河系は一目見てそれと分かるほどにはっきりと。 はっきりと死んでいた。 俺が医者であれば不眠症に効く致死量ギリギリの睡眠薬を速攻で処方するであろう重たい隈がそこに輪を掛けて印象を悪くする。どこまでも美少女が台無しだった。 「嫌がらせだなんてそんな事しないわよ。それにどの道、貴女は彼を殺すつもりだったんでしょう?」 自分は中途の手間を省いてやっただけだとでも言いたげな朝倉。で、なんだって? 殺すとか何やら物騒な単語が今聞こえた気がするのだが。どうか俺の聞き間違いであってくれよ。 「だったら丁度良いじゃない。今、ここで殺しちゃえば。貴女になら、それはとても簡単な事でしょう」 聞き違いではなかったらしい。どうやらこの病んだ眼をした美少女もかつての朝倉よろしく俺を殺すつもりの未来人で……くそったれ、俺が一体何をしたって言うんだ。未来でレジスタンスのリーダーでもやってたりするんじゃないだろうな。だとしたら今ここで生き方を改めるも吝かじゃない。 っていうか、どいつもこいつもあんまり人の命を軽々しく扱い過ぎじゃないか? ああ、親の顔をしばき倒したい。朝倉も、でもってあっちの美少女も。 「……やっぱり嫌がらせね」 少女がそう呟くのと朝倉がバック転でその場を飛び退いたのは同時だった。直後、和太鼓に乗用車が直撃したような重たい音がエントランスいっぱいに反響し、俺は思わずしゃがみ込んで耳を覆った。鼓膜が余韻で割れんばかりに震える。情報操作とやらでトライアングルを脳味噌に直接突っ込まれているんじゃないかとすら疑わしい激しい頭痛に襲われた。 「外したか。ま、いいわ」 「外した? まさか。わざと外してくれたんでしょ。貴女が本気なら私に避ける術なんて無いもの」 見れば先ほどまで朝倉が立っていた床が陥没して半径一メートルほどのクレータが出来ている。なんだなんだ、なんなんだ? 見えざる巨人の攻撃か、はたまた局地的超重力場でも展開したのか? 俺に分かるのは朝倉が咄嗟に跳躍しなければ、そこに平面系女子が誕生していたという純然たる事実だけである。 「本当厄介ね、貴女のその願望実現能力って」 ――なんだって? 朝倉は今、なんて言った? 願望実現能力? 願望実現能力って願望実現能力のことか? なら、やっぱりコイツが古泉の言っていた犯人? 「分かってるじゃん、涼子ちゃん。そうよ、こんな厄介な力は他に無いわ」 偽渡橋はしみじみと言った。それは独り言のようでもあり、どこか深い悲哀を入り混ぜていたように俺には聞こえた気がした。俺とそう年の差が見られない少女が口に出して良い重さでは、それは無い。 そういう人生を感じさせる声音は少なくとももう十年は生きないと出しちゃいけないんだぜ。熟成ってヤツが必要なんだ、ヒトもな。 「お、お前は」 未だ残響にくらくらと不安定な頭を右手で支えて立ち上がりながら、俺は問い掛ける。問い掛けに少女は微笑んでいるような、泣いているような絶妙に悲喜入り混じった大人びた表情をした。 「お前は誰だ?」 「分からない、キョン?」 少女は俺のあだ名を知っている。しかも呼び捨てと来たモンだ。自分ではそう狭量なつもりもないが、流石に気分も悪くなる。 「分かるはず無いだろ。俺とお前は初対面も甚だしい。自己紹介くらいしてもバチは当たらないんじゃないのか?」 「私はわたぁし。わ、た、は、し、や、す、み、よ」 嘘だ。偽名に決まっている。俺の知っている渡橋ヤスミは目の前の少女みたいに背が高くない。眼も死んでなかったし、全体的に倦怠的な雰囲気を醸し出す彼女とは属性が正反対と言ってもいいくらいだ。 ヤスミの成長した姿である可能性も考えたが、どこをどう捻くれて育ってもこうはなるまいさ。なにせアイツは――、いや、この話は今は必要あるまい。 「それ、あからさまに偽名だろ。本名は言っちゃくれないのか?」 答えたのは朝倉だ。 「無理よ。彼女が本名を貴女に告げれば未来が変わってしまう。だから、彼女は偽名を名乗るしかない」 「そうなのか?」 問い掛ける。少女は――答えなかった。 沈黙は金か、それとも無言の肯定を意味しているのか。逡巡するまでも無いな。この場合はあからさまな肯定だろう。朝比奈さん(大)も彼女の名前を禁則事項だとか言っていた。 いや、朝比奈さんの言う「彼女」がこの偽ヤスミと同一である保証は無いが。 「……未来から来たって言うし、渡橋ヤスミなんて曰く有る名前を名乗ってるからには俺たちSOS団の関係者なのは間違いない、か。オーケー、お前さんが名前を名乗れないってのは眼を瞑るさ」 本音を言えば未来がどうなろうと俺にはあまり関心が無い。未来が変わってしまう、とか言われてもイマイチピンと来ないのはそりゃなぜか。未来とは現在の延長線上だからだ。未来人にとって過去は変化の無い、変化させてはならない歴史であるってのは百歩譲って分かる話だ。けど、朝比奈さんにとっての過去は俺にとっての現在で未来。それは流動形で千変万化するものでなければならない、俺にとって。 努力も夢も希望も何も規定事項などと言われては敵わないからな。全部決まりきっているなんて、そんなん言われちゃ俺はきっと全てが嫌になる。無気力になる。無力感で努力の全てを放棄する。 それは嫌だ。それだけはダメだ。ハルヒと約束した。死ぬほど努力すると。佐々木に教えられた。世界は変わると。 現在に生きる人間として未来は俺次第だと信じている。そういう矜持。 そういう教示。 しかしそれでも悪戯に未来を変えて朝比奈さんに怒られるのも、困らせるのも俺はゴメンだ。それくらいは譲り合いの精神を持っていてもいいだろう。何よりもそういう決定を今の俺が下したのだから、それがこの時間における選択だ。その先に朝比奈さんの未来がぶら下がっているなんてのはただの偶然に過ぎないのさ。 未来から来た少女を見据える。澱み切った眼、壁に凭れ掛かった俺と目線の高さが同じなのだから女子にしては背の高い部類に入るだろう。俺の知っている小動物系の「渡橋ヤスミ」とはその外見は似ても似つかない。 「ただ、本名を名乗れないとは言え、代替案でもヤスミを名乗られるのはな……その名で呼ぶのはちょっと、いや、かなり抵抗が有るんだが」 俺の視線の先で少女が微笑んだように見えた。頬を緩ませたのはほんの一秒にも満たず、その表情だけは年相応の柔らかさと愛らしさを含んでいた気がするも、すぐに彼女は何を考えているのか分からない大人びた顔に戻っていた。 表情がまるで無い訳ではないのだが、それにしても読みにくい。ポーカーフェイスの上手さは長門か佐々木にも匹敵しそうだ。 「そう言われてもさあ……好きに呼べばいいじゃないの。どうせ、それほど長い付き合いにはならないし。私ならアンタからなんて呼ばれようと特に気にしないから」 それはどういう意味だ。初対面の女子にあだ名で呼ばれて少しイラついている俺を皮肉っているのか。 「ふふっ、そうよね」 朝倉が笑う。何が「そう」なんだ。人を蚊帳の外に置くのを止めて同意の論拠を示せっつーの。 「貴方が彼女を何と呼ぶのかは真実、貴方の自由なのよ。ただし、責任が付き纏う事まで含めての自由だから、」 宇宙人のよく分からない発言はまだ続きそうだったが、それは少女の搾り出した重く、そして冷たい声によって遮られた。 「……涼子ちゃん」 「あら、怖い。睨まれちゃった。そうね、あんまりお喋りが過ぎる女の子って可愛くないらしいもの。……貴女に消されるのも遠慮したいトコロだし」 朝倉と渡橋(仮)の間で非常識バトルが勃発寸前の剣呑な空気が流れている――訳だが、一体俺はどうしたものか。とりあえずの問題はこの未来人少女を何と呼称するか、だな。他にもっと大変な問題が有るだろうって? マルチタスクが出来るようなスペックの脳味噌を積んでいない俺をおちょくっているのか? はてさて、名前……名前……いや、そんなに深く考えるまでもないか。いわくにそれほど長い付き合いにはならないらしいし。所詮仮称だ、仮称。 「俺の自由だと言ったな、朝倉。おい、そこの渡橋の偽者。お前もそれで良いんだな?」 一応、少女にも同意を得ておく。彼女は一つ頷いて俺を見た。 「なら――ジユウだ」 俺の見ている前で少女は眼に見えるほどはっきりと息を飲んだ。何を言っているんだお前は、的な反応を予想していたのだがどうやら少女は頭の回転が中々に良いらしい。前後の文脈を読む能力に長けているのかも知れない。どっちでもいいが。 「……それって、名前?」 「ああ。自由(ジユウ)、お前のことはこれからそう呼ぶ。もう考えるのも面倒臭いしな」 話の流れで適当に付けたが、しかし少女は願望実現能力の持ち主であるらしいし割に嵌りの名前かも知れないな。あれ、もしかして俺って名付けのセンスが有るんじゃないのか。おい、誰か採点頼む。 高得点を期待して宇宙人を見やるも、朝倉は基本的に長門と同じで感情の発露というものに薄い。いつもと変わらない微笑を返されようと、それでは点数が分からない。テストの採点を炙り出しでやるようなものだな。残念ながらライタもマッチも持ってはいない。 ならばと偽渡橋改め自由を見れば、彼女は彼女で表情が読み難いのは先ほど言ったとおりだ。薄い唇が小刻みに震えているも、それが喜怒哀楽のどれに当て嵌まるのかなんて分かりゃしない。 佐々木か古泉がこの場に居ればそういうちょっとした仕草からも色々と見抜きそうだが、まあ、無いものねだりをしても仕方ないか。あの二人に自覚の無い時間旅行をさせてしまったのは俺にも原因の一端くらい有りそうだ。 「ちょっと。面倒臭いって……なんなの、それ?」 「いいだろ、別に。俺の勝手だ。それにお前だって俺からなんと呼ばれようが気にしないって言ってたじゃないか」 「それとこれとは……っ、分かったわよ。好きに呼べば、キョン」 なんだか釈然としていないような感じだな。恐らく少女の地雷を踏んだのだろうとはそれくらいは察しが付いたが、それが果たして具体的にどんな爆弾なのかなんて俺に聞くだけ無駄だってのは言わずもがなだ。 「……ふうん、こういう事だったんだ」 何がだ、と。俺が聞くよりも早く朝倉は後方へと吹き飛んでいた。って、なんですと!? 「朝倉っ!?」 真正面でダイナマイトが爆ぜたかの、そんな速度で壁に叩き付けられた宇宙人少女はしかし、その顔に苦悶も苦痛も一切浮かべていない。あの速さで壁にぶつかっておいてそれは有り得ない。ならば情報操作とやらで壁との間にクッションでも創ったか、それとも自分の体を鋼鉄の強度に作り変えたか。素人考えだが、そんな所じゃないかと当たりを付ける。 何にしろ、無事なようで何よりだ。血腥い展開はそれがかつての殺人鬼であっても見るに耐えない。細い神経の持ち主で悪かったな。誰にも迷惑は掛けていないからほっといてくれ。 「そんな情けない声出さないでよ……大丈夫。彼女――自由さんに私をどうにかしようという意思は無いから。ただ、喋り過ぎたみたいね。あーあ、やっぱり長門さんみたいに無口な方が得なのかしら? ねえ、貴女どう思う?」 その問い掛けは俺ではなく自由に向けて。 自由は朝倉向けて右手を掲げていた。その動作が何を意味するのか。依然、壁に張り付けとされている宇宙人が答えだろう。その掌を見れば不自然に半開きだった。あれは……もしかしてあれで朝倉を縛(イマシ)めているのか。なら握り込めば、朝倉は……朝倉はどうなる!? 「口は災いの門って昔から言うのよ、涼子ちゃん。それとね」 俺の危惧通りだった。全く、嫌な予感ばかり当たりやがる。朝倉が小さく痛苦の声を上げ、自由の手が先ほどよりも握り込まれていた。今でははっきりと朝倉の身体に透明かつ巨大な五指が埋まっているのが分かる。 「死人に口無しよ。良かったわね、二つ合わせれば『死人に災い無し』よ。死んでしまえばもう悪い事は無いわ」 「止めろ、自由! いい加減にっ!」 「黙りなさい」 少女は酷薄な声音でもって俺に命令する。だが、そんな命令聞けるか!? 聞ける訳無いだろ! 「ふざけんな! 宇宙人なら殺しても良いとでも思ってんのか!」 すっかり朝倉に二度、三度と殺されかけた事を忘れて俺は自由に向けて駆け出していた。その頬を思いっきり引っ叩いてやる。願望実現能力? 未来人? うるせえ、知ったことか。俺は目の前で誰かが殺されかけてるってのに単純に我慢がならないんだ。 「……え?」 素っ頓狂な声を上げたのは少女だった。歩き近付く俺を驚嘆の眼で見つめてくる。彼女の死んだ眼の中にその時、俺は初めて光を見た。 「なん……で? なんで、キョン、アンタ!」 何が「なんで」だ。知るか。ソイツが何を疑問に思ってるかも、戸惑っているかもそんなモン俺にはまるっとどうでもいい。 「朝倉を、放せ」 人が死んだり殺されたり。そんなのは俺の周りでは許さない。 俺達の世界でそんな狼藉はさせやしない。 『涼宮ハルヒの望んだ事は現実になる』。 なぜならアイツがそんな事を望む訳がないからだ。 だったらそんな事を誰にもさせないように俺は動くぞ。俺の意思で。 「放せって言ってんだ!」 この時の俺は誰が見ても単純明快に……そう、怒っていた。ハルヒを例に出せば理解に易いと思われるが、怒りとはエネルギ源である事に今更誰も疑問を抱くまい。だがしかし、このエネルギはあまり歓迎出来ない類と一般には認識されている。 怒りは御し難くまた決して融通も利かないのだ。 よく言えば一点突破、悪く言えば猪突猛進。それは俺が過去、朝倉に負わされた心的外傷をすっきりさっぱり忘れて彼女を助けに駆けている所からも明らかで、つまり眼を曇らせるものである。火事場の馬鹿力の親戚でエネルギにはなるが、その代償として一時的に周りの見えない、後先考えない馬鹿になってしまう。 何が言いたいかと言えばだ。俺はこの時忘れてしまっていたのだ。 少女――自由が願望実現能力の持ち主であるという事を。 「……ちっ」 自由は一つ舌打ちすると、朝倉を束縛している右手はそのままにフリーな左手を俺に向けて振った。それは纏わり付く鬱陶しい羽虫を振り払うような動作であったが、しかし効果は絶大だった。とても手で巻き起こしたとは思えない烈風が途端に俺を襲い、朝倉がそうであったように後方向けて床から強制的に引き剥がされた体は猛加速を始める。俺の意思などお構い無しに。 後方は壁。 足は宙に浮き、たたらを踏む事も許されない。 この速度じゃ受身も取れそうに無い。 そして俺は宇宙人ではない。 結論、このままでは背中から叩き付けられる。 俺はさっき朝倉がこうなった時に無事で済むはずがないと咄嗟に考えた。それはつまり、今から俺は無事で済まない羽目に陥るってこった。 マジでくたばる二秒前。 いや、死にはしないかもしれない。それにしたって背中からはヤバい。ヤバ過ぎて洒落にも何にもなっちゃいない。未来ってなんだ、希望ってどっちだ。台風に舞う薬局のデカい看板は建物の角にぶつかって拉(ヒシャ)げるのがお決まりのパターン。そんな画に俺の姿が脳裏で重なる。 冗談じゃない。だから――、 だから叫んだ。どうにもならない現実を、どうしようもない現在を、どうなってんだな現状を、どうにかしたい一心で。 「くそったれえええええっっ!!」 一心不乱の喉から出たの世界への恨み言。呪詛だった。けれど、それは「助けてくれ」と何が違うと言うのか。何も違わない。助けてと言わなきゃ助けを求めた事にはならないなんて、そんな事は決して無いのだから。 かくしてSOSに応え、ずっと出待ちを食らっていた我らがヒロインは現れる。 風が、吹いた。 前からの強風(とそれに「煽られる」なんて生易しい表現では足りない「吹き飛ばされ」た勢い)を相殺するように、後ろから俺の体に猛烈なブレーキが掛かる。当然の帰結として俺は前後からサンドイッチの具であってもここまで無体な扱いはされないであろうってな圧力を受ける事になった。 麺棒で薄く引き延ばされているうどん生地の気持ちの半分ほどを理解してしまえそうな状況はさりとて二秒と続かなかったのが不幸中の幸いで、なんとかかんとか空気の檻から解放された俺は強制エアおしくらまんじゅうによって押し潰された肺に一秒でも早く酸素を取り入れようと地面に両肘両膝を着いたままにぜえぜえ喘いだ。 恐らくここまで新しい拷問に掛けられたのは俺が世界で初めてじゃないだろうか。 「た、助かった、のか?」 多分、そうだろう。誰かが俺を助けてくれたのだ。でなければ俺は今頃マンションの壁に背中から激突して意識を強制切り離しの憂き目に遭っていたのは間違いない。そう言い切れる点に自由の本気――容赦の無さを思い知らされる。 「……無事?」 上からなんとなく懐かしい気すらする声が俺の身に降った。一番慣れ親しんだ宇宙人の、安心感すら与えてくれる静かな声が。 顔を半分ほど上げれば見覚えの有る飾り気の無い黒い靴下に覆われた、雪に例えてはどちらが比喩の引用元なのか分からなくなるほど白い足が視界に入る。ああ、これはいつかのデジャヴか。学校指定の内履きで、サインペンで名前が書いてあれば完璧だったんだけどな。流石に校外でそれは無いか。 いや、けれど少女は校外であってもいつも制服ではあるかなどと思い直す。息を整え、立ち上がりながら俺は言った。 「……いつもいつも、助けて貰ってばかりで悪いな」 「……気にしないで」 「気にするさ。今度、何か礼の一つでもさせてくれ」 「……そう」 小さくっても頼れる背中。長門有希はこっちを振り向きもせず、じっと自由と相対したままに一つリクエストをした。 「なら」 「なら?」 「……また、図書館に」 お安い御用だと答える代わりにポンとその頭に手を載せた。きっとこれで伝わっているだろう。そう、「ここ」こそが長門の昔と今の違いなんだと俺なんかは思う訳だ。 チラリと視線を動かせばエレベータの電光表示がいつの間にかアラビア数字の五を表示していた。どうやらそういう事らしい。だから長門がここに居る。まったく、よくやってくれたモンだと感心するね。間一髪だぜ、古泉、佐々木。もう一秒でも遅れていたらと思うとマジでゾッとしない。 「有希、か。そう。キョンの他にもまだ来ていたんだ? 一人じゃ出られないようにしといた筈だし」 朝倉か、もしくは俺に向けての自由の質問はマンションのエントランス内を反響した。 ああ、ちなみに(本意ではないが結果として)戦場と化したエントランスは当初の整然とした佇まいも見る影無く、当たり前だが惨状と化している。荒れ狂う風によって全部屋分の郵便受けはその中身を洗いざらい床にぶちまけ、観葉植物は鉢植えとの合体を解いて見る者の心を和ませるという当初の目的とは真逆の効果を生み出していた。 これ、誰が掃除するんだ? もしかして俺? 「ええ。誰も彼しか来ていないなんて言っていないわよ」 朝倉が凛と澄ました声で言う。張り付け状態はそのままでありながらなぜ、そんなに余裕を持っていられるのか。俺には分からない。辛うじて分かる事は一つ。どの時点で、までは分からないが朝倉は俺と自由に気付かれないタイミングで佐々木と古泉に掛けた時間凍結を解除していたって事だ。 つまり、コイツはコイツで俺の命の恩人って事に……なるのだろうか。いやいや、それはちょいと早とちりな気もするね。気紛れってのも朝倉なら十分に考えられる線だ。うーむ、もしかして自分で気付いていないだけで恩義を感じやすい性格だったりするのだろうか、俺は。 とまあ、こんなどうでもいい事を考えられるくらいに俺は余裕を取り戻していた。それってーのはひとえに長門登場のお陰だ。百万の軍勢に匹敵する頼もしさ。その頼もしさ故に、だからこそなるべく頼らないようにと常日頃から自分を戒めている訳なのだが、しかしながら今日ばっかりは仕方ないだろう。非常識に(物理的な意味でも)押し潰されて危うく死に掛けたし。 「他に誰が来てるの、涼子ちゃん。良ければ教えてくれない?」 「い、や」 語尾にハートマークが付きそうなくらいに可愛らしくかつ意地悪く言う朝倉。自由の右手指が更に角度にして五度ほど曲がり、朝倉の身体に見えざる巨人の五指が食い込む。制服のしわやよれと言った表現では生温いほど不自然な痕跡は、朝倉がどれほどの重圧を受けているのかを何より克明に語る。 それでなんで朝倉は表情を崩さないのか。宇宙人だから? 本当にそれだけなのか? 「だったら、キョン。……有希でもいいわ。私に教えてよ。他に誰が来てるの? ねえ、五秒以内に答えないと涼子ちゃん、潰しちゃうから」 潰す、と。言葉を濁さずに言う少女にはそれがきっと出来る。 自由は俺とは違う。彼女には、殺せる。殺したいってほど積極的ではなくとも、死んじゃってもいいかって程度には少女は十分に病的だ。それは殺されかけた俺が一番身に沁みて理解している。 何も答えなければ朝倉が死んでしまう。それはダメだ。カウントダウンを少女が始めるのと同時に俺は叫んだ。 「五……」 「古泉と、佐々木だ! 他には誰も来ていない!」 少女は最初、渡橋ヤスミを名乗った。その事からSOS団の関係者であるというのはほぼ確定だ。ならば……だが、 「……え? ちょっと、嘘でしょ……?」 だが、だったらこの狼狽はなんだ。古泉と佐々木がこのマンションに来ている事がどうしてそんなに不思議なんだ? そんなに驚くことか? その辺りを聞いてみたかったが、しかし事態はそれを許してくれなかった。 長門がこの場に姿を現してから初めて自由が見せた隙を宇宙製超高性能アンドロイドの目がまさか見逃すはずもない。長門は長門で朝倉を助けてやらなきゃならんって切実な事情が有るだろうしな。 だから突撃というよりは最早それは瞬間移動に近かった。俺は一瞬で長門を見失い、眼球を全速で動かした先、次に見たその少女は小さな掌の先に幾何学模様かアンドロメダ語で出来た魔法陣を携え、自由の斜め後方より奇襲を仕掛けようとしていた。 未来人少女は長い黒髪を振り乱して接近する長門に対応しようとするもその振り返りはどう見たって間に合わない。そもそも、超高速で迫り来る攻撃に気付けただけでも人間としちゃ規格外だと言い切ってしまえる常識外れな反射神経だってのに。さらに対応、迎撃を行おうなんて高望みが過ぎる。 そんな事は無理だ。出来ない。不可能だ。けれど、 けれど、俺は不可能を可能にする方法を――力を知っている。そしてそれを自由が持っている事も。彼女の辞書に「不可能」は無い。 願望実現能力とは、絶対だ。 絶対とは絶対。絶体絶命の危機にあってすらそれがジェットコースタと大差無い、多少スリル感を煽るスパイスにしか成り得ないという、そういう意味だ。それを目の前で起こっている出来事に置換するとどうなるか。俺の網膜に映るものがその答えだろう。 自由は長門の奇襲に対して迎撃を試みた――が、現実的にどう足掻いてもその動きは間に合わない。ならば、どうする? 答えは簡単。単純にして明解。振り返るだけの時間を彼女が「望め」ばそれでいい。……そうだ。こうして俺が長門と自由の闘争に関してごちゃごちゃと的外れかも分からない解説をしていられるのは単(ヒトエ)に「時間」が理由。 時間の流れをどうこうするってのは宇宙人だけの特権では無いらしい。 脳味噌の動きに体の方は少しも追いついちゃいなかった。宙を舞う長門のスカートのはためきはコマ送りで、俺の眼球移動は亀の歩みもここまでではあるまいって鈍さ。そんな世界が大声上げて教えてくれることは一つ。 一秒が一分にも三分にも感じられた。まるで今わの際。走馬灯みたいな――時間圧縮(クロノステイシス)。 そしてまた、今、この瞬間にスローモーションと化しているのはどうやら俺だけではないらしい。 長門の瞳の奥に驚愕の色が僅かばかり見え隠れしている事から、俺はこう推察する――恐らくは世界規模、いや、宇宙規模でこの現象は発動しているのではないか、と。 もしも俺の推理通りならば、それはまったく冗談じゃない。 いや、逆か。 冗談にしては笑えない。 時間が足りない、だから時間を引き延ばす。物理法則も常識もまるっとゴミ箱にドラッグアンドドロップしてなきゃ出来ない発想だ。少なくとも俺には無理だろう。 ああ、言うまでも無いだろうが、この停滞する時間の中で一人だけ動きにスローが掛かっていない女が居た。 事態の張本人、自由だ。一人だけこの時間の牢獄から解き放たれて……いやいや、この表現もまた逆なのだろう。自分以外他の全てを時間の牢獄にぶち込んだ、というのが恐らく正しい。 彼女は左足を軸にして、まるでここがスケートリンクででもあるかのようにスピンしながら宇宙人に向き直った。掲げられスラリと伸びた少女の右足はやけに眩しく、一拍遅れで彼女の回転に追随する。あの右足がこのままの軌道で美しい弧を描くとどうなるのか。コンマ三秒後の未来予想図を察知はしても、それを伝える暇すら俺には与えられなかった。 何も出来ない俺の見ている目の前でベクトル違わず、少女による迎撃――裏回しかかと蹴りは長門のこめかみを直撃。そして、それが合図であったかのようにようやく俺たちのスローモーションは解かれた。 「長門!!」 叫んで、壁に凭れ掛かったまま動かない少女に駆け寄ろうとしたがそれも二の足を踏まされる。俺と長門の丁度対角線上に自由が居たからだ。ああ、それがどうしたって話だよな。俺だってそう思うさ。アイツが居たからなんだってんだ。 だってのに……足が地面に引っ付いたように動かないのは、これは不可思議な力が働いてる訳じゃ決してない。 は、なんてこった。おいおい、俺はこんな臆病者だったっけ? ――くそっ、動けよ足! 動け!! 靴の爪先を床で少し傷めながらやっとの事で神経回路を繋いだ右足が前に出る。そうだ、ここで前に踏み出せないようなら、友達に駆け寄ることすら出来ないようなヤツには生きている価値すらない。そんなん死んじまった方が幾分マシだ! こちとら恥ずかしくない自分でいたいと決めたばかりだ。 「長門ぉっ!!」 願望実現能力を持つ少女を回り込むように長門に向けて走り出す。体の軸を重力に対して三十度傾けて転倒ギリギリのドリフト走行。しかし、そこは当然と少女が俺と長門の間に入り込んだ。これじゃ足を止めざるを得ない。 「邪魔だ、自由!」 「何、怒鳴ってんのよ、キョン。はあ……アンタ、自分の置かれた状況ちゃんと理解出来てないんじゃないの?」 少女はわざとらしく首をぐるりと一回転。そして俺を視線で射抜き、ニヤリと笑った。――泣きそうな顔で、けれどニヤリと。 「チェックメイトよ」 王手。つまり、俺を守るものは何一つ無いと……それは事実上の死刑宣告。朝倉はいまだに見えない拘束で締め上げられているし、蹴り飛ばされた長門は長門で起きあがる気配も無い。チクショウ、願望実現能力ってのはここまで圧倒的なシロモノなのかよ? 「俺を……殺すのか?」 自由は何も言わない。だが、否定しないってそれだけで俺には色々と十分過ぎた。 「なんでだよ、なんで見ず知らずの女子に俺が殺されなきゃならないんだ。理由ぐらい聞かせてくれてもいいだろう」 世の中の不条理はハルヒと共に行動するようになってから嫌と言うほど骨身に叩き込まれた俺ではあるが、だからと言って不条理を当然と許容出来るほどに俺の心は老成も完成もしていない。っていうか、俺の年頃にそんなものを求めるのがそもそも酷だとは思わないか? もしもこのまま納得のいく回答を与えられぬままに願望実現能力の餌食になってしまったら……いいか、俺は暴れるぞ。 毎晩枕元に立っては恨み言を夜中いっぱい呟き続けて慢性的な睡眠不足にしてやろうじゃないか。今でさえ目立つ自由の目の下の隈が更に強調されてみろ。新種のパンダと間違えられて果ては上野動物園からスカウトマンだって現れるだろうよ。 ……まあ、何を言われようとも被害者側が犯行動機に納得するとは俺には到底思えないのではあるが。 「知る必要は無いわ、キョン」 「こういうのは必要とか不要とか、そんなんじゃない事くらい分からんのか、お前は?」 「一理有るわね。だったら、こんなのはどう? 天秤よ。アンタの命の反対側には世界が載っている。私は世界を愛している。だから、世界の為にアンタを殺す」 人の命は地球より重いといつかの誰かは言ったそうだ。含蓄の有る良い言葉だとは俺も思うが、しかしそれはどこまで行っても理想論でしかない。現実的に考えて地球より重い命など有るはずがないからな。考えてもみろ、その奇跡の青い星には云十億の人命が積載されているんだぜ。以上、一人の命じゃ地球が釣り合う事すら有りはしない。数学的にも、そしてまた道徳的にもそうだ。 子供だって分かる理屈。ワンフォアオールではない、ワン<オール。全ては一人のためには存在しない。 けれども――まあ、考えた事すら無かったから仕方ないと言えばそうなのだが、その一人の命ってのが自分自身のものと来た日にはそんな当然の数式すら飲み下し難いのが実状だ。っていうか、俺はいつの間にそんな、人類の存亡やら星の未来やらを左右する超ブイアイピーになってしまっていたのだろうか。 こればっかりは本当に首を捻るばかり。 「理解した? 納得した?」 「いいや、ちっとも。今殺されたら末代まで祟ってやるからな。長門にどうしようもないようなヤツにとって俺をどうこうするのは、それこそ朝飯前だとは思うが俺だって只では死なん。考え直すなら今の内だぞ、未来人」 「末代、ね。そんなの何の脅しにもならないわ。出来の悪いジョークでしかないもの」 自由はそう言うと俺に背を向けた。彼女の視線の先に居るのは糸の切れた人形のような長門。その首は項垂れたままだ。まだ意識は戻らないのか、それとも願望実現能力とやらで意識を切り離されているのか。 ただ一つ言えるのは長門はもう戦えそうにないという事実。 唐突に、未来人にして全てを好きにしてしまえる少女が寂しげにポツリと呟いた。 「はあ。……ねえ、二人掛かりならなんとかなると思った?」 一瞬、自由が何を言っているのか分からなかった。二人という単語が朝倉と長門の事を指すのだと、そう気付いた時にはもう既に遅く。制止の声を上げる事さえ叶わなかった俺が次の瞬間に見たものは――罅の入ったタイル地の壁面だけだった。 あまりの事態に脳が付いていかない。何が起きた? 長門は? 長門はどこへ行った? 朝倉は? 朝倉はどこへ消えた? 「……えっ?」 視線の先に倒れ込んでいたはずの宇宙人少女と、俺から見て右手四十五度前方で拘束されていた宇宙人少女は――神隠しに遭ったようだった。そう言う他にちょっと適当な表現が思い付かない。あっと言う間すら与えられずに目前で消えるような事態を他に俺は何と言えばいい? テレポーテーション? 「まったく、宇宙人っていうのは油断も隙も無いわね」 「何しやがった、テメエ!」 「はあ、ヤだヤだ。煩いから一々叫ばないで」 自由は右手で自分の髪を梳きながら、心底どうでも良さそうに言葉を続ける。 「別に私が直接何かした訳じゃないわよ。有希も涼子ちゃんもやけに大人しいなとはさっきから思ってたんだけど……思ってたほどの手応えもまるで無いし? これは何か企んでると思ったら、まあ予想通り。二人して隠れてブツブツ呪文みたいなのを唱えていたから『あーあ、鬱陶しいなあ』ってさ。こう思っただけ。思っただけなのよ。分かる? それで……それだけでいいの、願望実現能力ってモノは」 ああ、確かに自由の言う通りだ。 願望実現能力。 その力は引き金が軽過ぎる。散々、ハルヒに振り回された俺が誰よりも理解しているとも。その唯一の安全装置は古泉曰く常識ってヤツになるのだが、それをハルヒ以上に望めないのが目前の少女だと俺はここまでのやり取りで概ね理解していた。 「有希と涼子ちゃんがどうなったのかは私にも分からない。でも、少なからず『どうか』なっちゃってるでしょうね」 そんな物騒な事をあっけらかんと言い放つ目前の少女に今更ながら、朝倉に感じるものと良く似た怖気が込み上げてくる。 なんなんだ。 一体なんなんだ、コイツは。 消えた……つまり、最悪二人は死んじまったかも知れないってのに、事実のみを機械的に抑揚なく話す姿は本当に人間のそれなのか。自由は長門と朝倉をファーストネームで呼んでいた。って事はそれなりに交流は有ったはずだろう!? なのに、こんなのって。 「長門っ……朝倉っ!!」 瞬間移動による退場処分程度で有ってくれ。そう祈るように名前を呼んだ俺の背中に、 「……何?」 たった今失ったはずの三点リーダが降った。 16,SOS団主義 おい、大事が無かったとは言え出てくるの早過ぎやしないか。 安堵も有るが、それにしたってこうも引っ張らないようでは肩透かし感は否めない。今さっき、俺がチラリとでも覚えた憤慨をどこにぶつければいいのか。俺に名前を呼ばれて出て来たコイツが悪い訳では決してない。ないがしかし、振り向いて声の主、長門有希の頼もしい立ち姿を見る俺の目はきっと恨みがましいものになっていたんじゃないだろうか。手鏡なんて持っちゃいないが、それくらいは想像に容易い。 「有希?」 「はあ……ま、元気そうで何よりだ、長門」 俺の見る限り傷一つ負っていない宇宙人少女の視線は、彼女に声を掛けた俺を一瞥もしなかった。長門の意識はずっと神様少女マーク2に注がれている。絶対零度に肉薄するやも知れない少女の遠慮の無い注視を正面から受け止め続ける、自由も相当肝が据わっているな。 俺なら五秒と持たず眼を逸らす自信が有る。氷漬けはゴメンだ。 「ねえ、どういう事?」 「……質問の意図する所を明確にするべき。でなければわたしにも回答は困難」 「なぜ有希がここにいるの、って聞いてるのよ」 「……わたしはずっとここにいた。どこにも行っていない」 ここにいた――ずっと? そんな馬鹿な。俺はこの眼で長門が自由によって消された瞬間を見ている。だが、それを長門は明確に否定した。狐に化かされたようなってのは正にこの事だ。宇宙人とそれ以外の間、認識に齟齬が生じてるのは違いない。 「何よ、それ。意味分かんない」 ほらな。やっぱりだ。 願望実現能力の持ち主ですら状況が把握出来ていないってのに何の力も持たない一般人代表にそれを求めるのは少々酷ってモンだろう。毎度毎度の事ながら、事件ってヤツはちっとも俺に気を使ってはくれはしない。探偵ものの二時間ドラマを三十倍速で見せられている気分だぜ。 しかし、少なくとも長門有希の「人となり」を俺は知っている。つまりそれは、コイツは先ほどから嘘だけは吐いていないという意味だ。 「嘘よ嘘よ嘘よ」 自由はそう言うが、俺は確信している。嘘を吐けるような器用さを、小狡さを、俺の長門は持ち合わせてはいない。 「さっき、確かに手応えは有ったもの。『有希は』『どこかに』『跳ばした』。私の願望なのだから、そうね、どっか行っちゃえってあの時の私は思ったのよ。だったら、そう簡単には戻って来れない場所のはず。なのに、有希はここにいる。何をしたの? どうやったの?」 「何もしていない」 自由の問いにこれ以上ないってほどシンプルかつストレートな回答を返す長門。シンプルってのは基本的に褒め言葉だと俺は思うが、しかし何事も時と場合であり、推理小説が推理パートを端折っては最早文学としての体を成さない。そんなことくらいは宇宙的文学少女にも分かって貰えていると思っていたのだが。どうやら長門は生粋の読者であり、書く方には絶望的に向いてないようだ。 それとも、もしかして探偵役を俺に要求しているのだろうか。いやいや、流石にそれはあるまい。ミスキャストだ。フランス映画のヒロインにアル・カポネを持ってくるような斬新さだぜ。 俺はふうと息を吐いた。安堵と困惑の絶妙なブレンドで。 「長門、一つ聞かせてくれ。……お前一人か? えっと、つまり――一緒に消えた朝倉はどこへ行った?」 一応言っておくと朝倉を心配している訳ではない。そもそも俺なんかが心配するような対象でも無い訳だが、それにしたってその動向は気になった。二人で神隠しに遭っておきながらどうして長門だけがひょっこり帰ってきているのか。 いや、長門の言を鵜呑みにするならば、そもそもコイツは神隠しに遭ってすらいない。 自由じゃないが、そいつは一体どうした事かと俺が疑問に思うのもむべなるかな。長門無傷の秘密、もしかしたらそれは願望実現能力の傍若無人、絶対無敵っぷりに対する唯一の切り札となるのかも知れない。そうだろう? さて、朝倉の現在地を問われた長門は何も無い中空を、まるでウチのシャミセンのようにぼうっと見つめ始めた。ああ、これは母星との交信が始まったなと俺は即座に理解する。そして、それは裏を返せば朝倉との直接交信が現在コイツには出来なくなっているって事に相違あるまい。 やはり朝倉は自由によって強制テレポートさせられているのだ。 「――確認した。朝倉涼子は既知宇宙に存在している。健在。現在この星からの距離を測定中」 「星!? ……ああ、いや、距離までは要らん。聞いても多分、俺にはどうしようもないしな」 ロケットでも組み立てて迎えに行けってか? 宇宙飛行士が夢だったのは幼稚園の年中さんまでだ。今の夢は――と、こんな事語ってる場合じゃない。 「……そう」 「とにかく、遠くにいるんだな。」 それも恐らく光年単位。改めて願望実現能力ってヤツの万能感、そしてスケールの大きさを体感せずにはいられない。 「……そう」 「って事は朝倉には自由の願望実現能力は通用した訳だ」 「……そう」 長門は言うも、ここで今日一番のクエスチョンだ。俺と自由の共通の疑問。 「なら、なんでお前には利かなかったんだ?」 俺の中で「もしかしたら」は仮想構築されていた。前例も有ったからな。いや、「前科」と。もしかしたらこう呼ぶべきなのかも分からない。ただ、俺はそれを罪だとは思っちゃいないし、どっちかと言や子供の駄々に近しいものだと思っている。 去年の冬。丁度今の時期、クリスマス前。パラレルワールド、漂流する俺、眼鏡を掛けた長門有希。 『長門さん達の情報操作能力をゲストアカウントとすれば涼宮さんの願望実現能力はアドミニストレータ権限に相当するでしょう』。 『だったら去年の十二月の一件はパスワード漏洩、もしくはハッキングだな』。 『覚えているかしら、昨年の丁度今頃。長門さんが大規模な世界改変を行ったでしょう? 今の長門さんもあの時と同じくらい、いいえ、それ以上のエラーデータを蓄積させているの。いつ、何を起こしてもちっともおかしくないわ』。 悪い予感には事欠かないこの身が歯痒い。チクショウ、あんな事は二度とゴメンだぞ、長門。 「違う。認識に齟齬が発生している。わたしは彼女の力の対象となっていない」 「いや、それって?」 それってつまり――つまり、どういうことだ? ううむ……ダメだ、分からん。早々に推理を放り出した俺とは逆に、死んだ眼をした少女は何かに思い当たったように顔を上げた。 「もしかして、有希……じゃない? いえ……でも、いつ……」 は? 長門じゃない? 何を言っているんだ、自由は。 俺は長門が消える場面をしっかり目撃した。だから、それはない。あれは確かに長門だった。 ……いや、でも。 決め付けるな。 本当に、アレは長門だったのか? 改めて記憶の玩具箱をひっくり返す。そして思い至った。 入れ替わり、双子の姉妹ってのはミステリにおける古典トリックだが。 古典過ぎて現代でやってしまえば色んな方面から怒られそうなレベルであり、それはトリックとしても成立しないくらいに広く手法が知れ渡ってしまっている。しかし、だからこそ「それは無い」って思い込みは死角と盲点を産む。それが使い古されている事なんてきっと宇宙人は知らないから、使用に躊躇なんて無かっただろう。 そして、長門有希は古典を好む。……だとしたら、 「長門、教えてくれ」 「何?」 「喜緑さんはどこにいる?」 双子の姉妹。どちらが姉でどちらが妹かなんて知らないが。 「……確認した。彼女は今」 長門が俺の問い掛けに対して母船との交信を始めた事で確信した。 「朝倉涼子と共に居る」 自由の眼が見開かれる。信じられない、と。その表情は雄弁に語っていた。 「私がテレポートさせたのは有希じゃなくて喜緑絵美里……ってこと?」 「……そう。わたしではない」 「そんな……いつ……?」 神様少女の動揺は声の震えとなって隠し切れずに現れた。 ……おいおい、それにしたって震え過ぎじゃないのか。 それはそこまで驚く事だろうか。自由は長門や朝倉、喜緑さんが宇宙人である事を知っている。であるならば、彼女達が常識で量ってはいけない相手だって、それくらいは常識として理解しているはずではないか。メタモルフォーゼを利用した入れ替えトリックくらい、そんなモンが今更なんだってんだ。 そうだ、そんな事は驚愕に値しない。だとしたら少女が驚いているのはきっと別の理由。なんとなく俺にもそれは理解出来た。 少女は願望実現能力の持ち主である。ならば――、 思い通りになっていない今が、自由にとっては驚きなのだろう。 世界は今まで彼女の思い通りだった。望み通りだった。それが当たり前で、世界とはそういうものだと今の今まで少女は理解していたのだ。だから、初めての経験に彼女は戸惑っている。動揺している。それは――それはなんて――、 「お前、俺たちに助けて貰いたいんじゃないのか?」 俺の口からポロリと零れた言葉は、いや、何を言ってんだ、俺。 ソイツは敵だぞ。俺を殺そうとまでしやがった。長門が間に合わなかったら俺はきっと死んでいたに違いないってのに。だから無いよ、無い無い、それは無い。 だってのに。 「……無理よ」 自由は助けを求めている事、それ自体を否定しなかった。深い隈に縁取られた眼は心なしか赤く潤んでいるように俺には見える。殺意を抱く手と逆の、手は足掻いている。助けを欲している。願いはなんでも叶うはずの少女が、それ以上に何を必要とするのかとは思う。 けれど、確かに。そこに紛れも無い「SOS」を俺は見た。 「もう、どうにもならない。だから無かった事にするのよ、私は」 血を吐くように未来人は言う。 「それが唯一の方法だから」 何を言っているのか、正直俺には分からない。この自由と名付けた少女が何を見て、何を知って、そしてどのような過程でもって俺を殺すという結論に至ったのかを俺は知らない。しかし、それが苦渋の決断であった事くらいはどうにかこうにか俺にも理解出来た。 長門はその辺りの事情を知っているのだろうか? 何を言い出そうか、問い質そうかも判然としないながらもとりあえず動かした声帯がはっきりとした震えになるよりも早く、後ろから声が聞こえたので俺は心底驚いた。 「おやおや、何やら話が込み合っているようですね」 「のわっ!?」 心臓に悪い登場をしたのは自称エスパー少年だ。首をぐるりと動かせば階段の方から歩いてくるのが見て取れた。どうやら下りにエレベータは使ってこなかったらしい。微苦笑気味ないつもの表情を張り付けて、ロビーホールの惨状も気にする様子はない。 ドイツもコイツも胆の据わり方が常識外れている。 「失礼、驚かせてしまいましたか。それにしても、派手にやりましたね。まるで強盗に遭った家屋の様相ですよ」 「俺がやったんじゃない」 「別に、貴方を責めているつもりはありません。何があったかは知りませんが、貴方に大事無さそうで僕としては一安心です。これで何か遭っては『お前が付いていながらどういう事だ』と上の人たちから散々にお叱りを受けるでしょうから」 言いながら古泉は俺に隣に並んだ。 「始末書ものですよ」 死に掛けた事を新川さんにでも告げ口したら、この優男に一泡吹かせてやれるだろうか。 だが、俺としてはそんなモンよりも危険手当の方がよっぽど欲しい訳で。今回の一件も然るべき場所に願い出れば小さな家が買えるくらいの金額を貰えるんじゃないだろうか。人命ってのはそこまで安くないはずだと俺は頑なに信じている。 ただ、問題が有るとすれば俺にはその「願い出る然るべき場所」ってのにとんと心当たりが無い事か。 おいおい、今回も骨折り損で間違いないってかい? 「古泉……一樹」 自由は絞り出すように口にする。憎々しい、と言うよりは出来れば会いたくなかったってな声音だな。どうやら俺や長門ばかりでなく、彼女は古泉とも何らかの関係が有るらしい。いや、ここまで来れば恐らくSOS団全員の関係者と見てほぼ間違いあるまい。 どうやら古泉も同じような事を考えたらしい。 「ふむ、自己紹介をする必要は……無さそうですね」 最初からそんなモンするつもりも無かっただろうに、いけしゃあしゃあと。それとも何か? 息をするように嘘を吐くのは超能力に目覚める上で必須スキルだったりするのかね。詐欺師か役者、もしくは政治家ってんならそれも分かる話だが。 「さて、貴女は僕の事を知っているようですが、しかしながら僕の方は貴女の事をまるで存じ上げません。ただし……これは恐らく『今はまだ』ではないのかと推測しますが」 微笑を崩す事無く自由に向かってそう言った古泉は眼の端で一度だけ、チラリと隣に立つ俺を見た。 おい何だ、今の意味有りげな視線は。何かのアイコンタクトだったりするのなら、せめて試合前にサインの打ち合わせくらいしておいてくれないと困るんだが。 「何? 自己紹介でもしろって言うの、古泉さん?」 「いえ、そのような事は強いていません。それに――ふふっ、古泉『さん』ですか。今のでやり取りでおおよその見当は付きました。貴女の自己紹介は、これは多分必要ないでしょう」 「「え?」」 俺と自由の声が重なる。古泉は何をそんなに驚く事が有るのかと肩を竦めて見せた。 「そうですね……僕の予想が正しければ貴女は彼に対して『渡橋』とでも名乗られたのではありませんか? どうでしょう? もし、この予想が当たっていれば僕としてはもう貴女には何の質問も有りませんよ。こっちに残っているのは回答を得られない類でしょうし……ね」 「……なん、だって」 隣に佇むその男はそんな事を事も無げに言うが――正直意味が分からない。なんだよ、これ。どうなってんだ。 確かに古泉の言う通り。少女の名乗った偽名は渡橋。だけど、それをコイツが言い当てるのは無理に決まっている。それもそのはず、少女が俺に対して名乗った時、古泉はエレベータの中で時間ごと凍結されていた。つまり、古泉はその事を知り得ない。 でありながら。 千里眼? 地獄耳? おいおいお前、いつの間にそんな超能力者みたいな事が出来るようになったんだ? 「いえ、そう難しい事でも無いでしょう。ちょっとした推理、関連付けの結果でしか有りません」 ヒントは十分に出されていたと、探偵役は言うもこっちは早く解決編をやってくれってな気持ちでいっぱいだ。だがしかし、解決編は披露されなかった。 「古泉一樹、貴方はそれ以上喋るべきではない」 遮ったのは長門だ。 「それは彼が自分で気付かなければ意味の無い事。ここで貴方が彼女の事を話した場合、高確率で」 「世界改変が行われる。そうですね、長門さん。そして――渡橋さん。貴女にはそれを行う用意が有る」 「そう」 長門が小さく頷く。俺たちと対峙する偽渡橋、自由は答えない。こっちはただ、沈黙を貫いた。けれどその顔には。 第一印象、俺は少女に「無表情」という感想を抱いた。しかし今はその事実が嘘のように眼には星雲が煌いていた。まるで誰かさんのように。 俺はこの眼を知っている……気がした。きっと気のせいじゃない。 「仕方がありません。ここではこれくらいにしておきましょうか。そうしないと後が怖そうだ」 「おい、古泉!?」 訳知り顔の俺以外、お前ら三人はそれでいいかも知れないけどな。こっちは消化不良で胃もたれも良い所だ。このままじゃ夕飯も入らん。断固として説明を要求するぞ。 結果、危惧の通りに世界が変わろうがそんなのは知った事か。それくらいで変わっちまうようなら最初からその程度のモノだったって諦めも付くだろうよ。少なくとも俺はな。 「そう言われましても……長門さん?」 微苦笑気味の古泉が持ち出した疑問符は質疑応答の許可を求めていると見て間違いあるまい。 「……少しだけなら」 「ありがとうございます。では、差し障りの無い範囲で、彼にヒントを」 説明ではなくヒントって辺りがどうにも腑に落ちない感じだったが、それにしたって無いよりはマシだ。ノーヒントのクイズ番組なんて昨今はとんと見かけない。それが何故かって言ったら流行らないからで。 つまり、俺は凡人(ワトソン)だって事なんだ。 「いいですか、よく聞いて下さい」 古泉は自由から俺に向き直ると一息に言った。 「彼女には願望を実現する能力が有る」 ――は? 今、古泉は何て言った? 自由には願望実現能力が有る? 何を言っているんだ、コイツは? 今更……ああ、今更過ぎる。そんなのはちっともヒントになっちゃいない。そうだろ? お前だってここに来る前に言っていたじゃないか、願望実現能力の持ち主を相手にしなければならないかも知れない、と。俺なんかはこの身で文字通り体感したってのに。 ……いや、違う。 古泉が聡いヤツだってのを忌々しいが、しかしそれでも俺は知っている。それは未来人が危険視する程で、現代人の内でも頭抜けて非常識方面でクレバーなのは疑いようもない。そんな男が既知の内容の重複でたった一度のチャンスをふいにするだろうかという疑問。もしもこれがミスではなく、れっきとしたヒントであったのだとしたら果たしてどのように考えられるだろうか。 古文における二重否定は肯定で。でもって、既知の内容の繰り返しは強調だったか。――強調。それは願望実現能力を自由が持っている事をもっと深く考えろって意味だろう。でも――、けど――、 何かが、違う。何かを、勘違いしている。何かが、引っ掛かる。 「願望を……実現する」 口にして反芻する俺を見てニヤリと古泉が笑う。その笑みの意味する所は分からない。だが、気付いた事は有る。些細な事だ。つい見逃し、いや、聞き逃しちまいそうな人によっちゃ心底どーっでもいい事なんだが。 きっと自由にはどうでもいい事。けれど俺には意味の有る事。そういうヒントじゃないと、この場では通らない。それを加味してこれから出す問いに答えろ、俺。 なぜ、古泉は「願望実現能力」を「願望を実現する能力」と一々文節を切って表現した? たまたま? 偶然? いいや、違うね。 なぜならば――、 なぜならば俺はこれと全く同じフレーズを、一言一句違わぬその台詞回しをどこかで聞いた事が有るからだ。 そして、それがこの場合の他ならぬ「ヒント」なのだろう。渡橋ヤスミ。その名前の意味する所は半年以上前に種明かしが済んでいる。ならば、コイツは――。 俺が深い深い思索の深遠への素潜り世界新記録に挑もうとした丁度その矢先、出鼻を挫くようにポニーテールの少女がそれまでずっと引き絞っていた口元の横一文字を解(ホド)いた。 「古泉さん、その口振りだと私の目的にも凡(オオヨ)そ察しが付いているんじゃないの?」 いやいや、そんなものは似非超能力者に聞くまでもないだろう。未来少女、自由の目的は俺を殺す事だ。つい数分前に茶目っ気の欠片も無い、正真正銘必殺の一撃を浴びせられた俺が言うんだからそこんトコは間違いない。 目的達成のための手段であるのかも知れないな。しかし、そんな事をした所で何がどうなるのか俺にはとんと理解出来ない訳だが。殺された後の想像なんて精神衛生上よろしいと思えないことは謹んで辞退させて頂こうじゃないか。 具体的な内容はさて置き、SOS団の団員を殺せばそれを受け入れられないハルヒの力で世界が変わっちまう、ってーのは十分に有り得る線か。 「ええ。『世界改変』ですね」 古泉もどうやら俺と同じ考えらしい。が、その超能力者に向けて自由は言い放つ。 「そこまで分かっているなら話は早いわ。だったら古泉さん、この一件にどうか関わらないで貰えますか?」 そんな要求を古泉が飲めるはずはない。超能力者達は世界改変ってのを起こさないのを主目的としているのを俺は知っている。つまり、自由の要求は古泉曰くの「機関」なる集団の存在理由に真っ向から衝突するものである。そのはずだ。 なら、機関の構成員としての古泉が職務規定に基づき自由の要求を拒むのは分かり切った展開ってヤツで。 「お願い、ですか。そんな事をせずとも貴女ならば僕を有無を言わさず従わせる事すら出来ると思うのですけれど。倫理的にそのような行為がお嫌いならば地球の反対側へ僕を強制テレポートさせるなり、そもそも十二月二十五日以降の時間まで時間旅行をさせてしまえばよろしいのでは?」 確かに優男の言う通りだった。その方が手っ取り早く、また後腐れも無い。いや、そもそものこの古泉と自由の問答からしてオカしい話だ。 だって、自由は願望実現能力の持ち主なんだぜ? 「十二月二十四日に世界は私の手によって改変される。もし、古泉さんを二十五日以降まで飛ばすと少なからず平行時間軸との間に衝突摩擦(コンフリクト)が起こるだろうけど、それでも良い? 最悪、時間旅行者ではなく、時間難民になってしまうわよ」 「僕の身を気遣ってくれているのですか。お優しいですね、渡橋さん。では、海外旅行ではどうです?」 「それもどうかしら。私は人を意識的にテレポートさせた事なんてないから、安全な旅行になる保証はどこにもないの。……ねえ、分かっているんでしょう、私に古泉さんへ危害を加える意思が無い事くらい」 そうなんだ、もしも少女が古泉へ何らかのアクションを起こすことにまるで躊躇いを持っていなかったとしたら、エスパー少年は願望実現能力者の言う通りに即座に事件への関わりを断ったことだろう。どころか、この場に現れることが出来たかどうかからすら最早怪しい。それくらい圧倒的な力が願望実現能力と呼ばれるものである――なんてのは、これは今更俺が説明するまでもないか。 「そのようですね。分かりました」 隣で嘆息しているところ悪いんだが、何が分かったってんだ? なんか嫌な予感がするぞ、俺は。 「貴女の言う通りにしますよ。この一件――今回の一件に僕こと古泉一樹は関わらない事をここにお約束します。確かに、僕の出る幕は無さそうです」 「おいコラ、古泉!」 これが叫ばずにいられようか。 「何考えていやがる! 職務怠慢でお前の上司に訴えるぞ!」 「いえ、そのような事を貴方が態々なさらなくとも事の次第は僕から機関に報告しておきますので」 そういう事を言っているんじゃない! ってのに、頭がオカしくなってしまったんじゃないだろうかと疑わしい超能力者を擁護するヤツまで出て来る始末。 「古泉一樹の選択は正しい」 長門、お前まで何を言ってやがるんだ。くそっ、願望実現能力が遅ればせながら長門と古泉に作用したってのか!? 「違う」「違います」 どうだか。声を合わせて否定するであるとか、益々俺の疑惑は深まるばかりだ。 「貴方にはどう言えば分かって貰えますかね……昨年の五月、まだ覚えていますか?」 今年ではなく、か。高校入学早々って辺りだな。よく覚えているとも。ハルヒに出会い、そしてコイツらに出会った奇跡の詰まった一ヶ月だからな。そう易々と忘れられそうに無い。俺が頷くと、古泉は満足そうに鼻を鳴らした。 「あの時と同じです。宇宙人も、未来人も、そして僕も。基本的にはオブザーバーという位置取りなんでしょう。世界の命運を決めるような大それた事は僕には荷が勝ち過ぎるのですね」 苦笑気味に少年はそう言った。負け惜しみのようにもそれは聞こえなくは無い。同年代でありながらこうも悟った表情を出来るのは古泉一樹の面目躍如ってトコだろうか。つくづくコイツは一挙手一投足が演技掛かっている。 「ヒーローは貴方です、今回も」 その様子は余りにもいつも通りで、願望実現能力によって無理矢理に意見を捻じ曲げられたものには見えなかった。 そしてそれは古泉だけではなく、長門も同様だ。 何も言わないまでも、俺を真っ直ぐに見つめる液体ヘリウムで満たされたその瞳は雄弁に古泉を肯定していた。 「古泉さん、悪いけれど世界の命運はもう決まっているわ」 「いいえ」 自由に向けて少年は不敵に微笑む。 「いつだって未来は白紙ですよ。ね、長門さん?」 古泉の問い掛けに未来視を止めた宇宙人はほんの三ミリほどの首肯を返した。 未来から来た少女相手に「未来は白紙だ」と言い切るその皮肉っぷり。見習う気は無いまでも、少女の機嫌を損ねれば冗談でなく時空難民になってしまうこの状況下、よくそんな台詞が吐けたモンだぜ。しかも微笑を崩さずに。 そんな綱渡り野郎に手を引かれるように、俺の心は少しづつ冷静さと余裕を取り戻してきていた。そういえば佐々木は今どうしてんだ、って疑問を抱けるくらいには。 「彼女なら私の部屋に居る」 「ああ、そうでした。佐々木さんを待たせていましたね。こんな所で立ち話もなんですし」 確かに、この惨憺たる状況の玄関は話をする場としちゃ論外なのは認めるが。しかし、その先はお前が言う事じゃないだろ、古泉よ。向かう先はこれはもう一つしかないが、それにしたって家主に一言くらい断りを入れたらどうなんだ。 と、その長門にコートの裾を掴まれた。どうした? 「古泉一樹」 「はい、なんでしょう?」 「彼女を連れて先に私の部屋へ」 長門は小首を上げて俺を見上げる。何か言いたい事が有る、ってーのは長門表情権威学専門の俺だからこそ理解出来たと自惚れたって良いかもな。 「私は少し、彼に伝えなければならない事が有る」 「かしこまりました。では、渡橋さん行きましょうか。晩御飯を佐々木さんが用意してくれているそうです。ご飯、まだですよね?」 場違いににこやかそのものの古泉はエレベータに乗り、自由向けて目配せをする。その様子に何か言いたそうな神様少女は、しかして口を引き結んで何を言う事も無く古泉に追従してエレベータに乗り込んだ。 金属製の扉が何事も無く俺の視界から二人を覆い隠し切ったその瞬間、俺はその場に崩れ落ちて大きな、とても大きな溜息を吐いちまった。肺活量を測定している時分でないのが悔やまれる。世界記録にだって挑戦出来たかも分からんぞ。 なんなんだ、アイツは。全く訳が分からない。得体の知れないっぷりで言ったら古今トップクラスだ。 渡橋ヤスミを自称して、俺を殺そうとして、で挙句の果てに古泉と長門からどこか身内判定されている節すら有る。いや、朝比奈さん(小さい方な)とも昼間は一緒に居たからSOS団不思議班公認なのか? じゃ、なんで俺を殺そうとしやがるんだと。そんな相手となんでフレンドリーなんだと。疑問はぐるぐる回って一向に出口が見えない。 まるで闇を手探りで進んでいるトマス・ソーヤーだ。ま、俺には勇敢さも無ければ右手で引くガールフレンドも居やしないが。 洞窟で俺が捜し求めるべき光はきっと、古泉が言ったあの一言に集約されるのだろうとは、それは流石に当たりが付いている。 彼女には願望を実現する能力が有る。 だが、そんな事は分かっているんだ。 「違う」 ……何がだ、長門。 「貴方は思い違いをしている」 だから、何を俺は間違えてるって言うんだ、長門! 「彼女は貴方を殺そうとなどしていない」 「いやいやいやいや。現実に、お前の救援がなければ俺は壁に叩きつけられちまってたんだ。あの速度は人間なら良くて骨折、打ち所が悪ければマジで死んじまう!」 マジでくたばる二秒前。本物のヤバさとはどういったものなのかを脳髄に叩き込まれるような体験は決して俺の望む所ではない。 「『喜緑絵美里』が貴方の危機に間に合ったのは偶然ではない。あのタイミングは彼女が望んだもの。そもそも」 本当の意味での願望を実現するとは、一体どういうことか。分かっていた。分かっていて、それでもまだまだ俺には理解し切れていなかったらしい。 「彼女が本気で殺害を検討するような人間は、彼女の傍には存在すら出来ない。それは彼女が望まないから。全ては彼女の思い通りになる。全てとは全て。それはつまり私も。そして貴方も」 「そもそもいなかった事になるってか。気分の悪い話だな」 具体的に言うと掌上の孫悟空の気分だぜ。 そういや、ちょっと引っ掛かったんだが。 「今さっき、喜緑さんとか言ったか?」 「……言った」 なんとなく長門を見る。いつも通りだ。そこに何の不審も無い。じっとこちらを見つめ返してくるその姿は見慣れたものだった。 しかし、だ。それでは俺が頭を撫でたのも、そして俺に対して「また図書館に」と言ったのも喜緑さんの擬態であったという事に他ならない。だが、ここで断言しよう。それは無い。あの時、俺を助けてくれたのは確かに長門だった。 根拠なんてものは無い。ただの勘だ。フィーリングって言ってもいいが。 だが、一年数ヶ月のめくるめく不思議体験によって培われた俺の第六感はそう捨てたものでもないはずだ。 そうだよな、長門。 「はあ……願望実現能力が全てを有る程度意のままに出来るってふざけた力なのは、この状況でそれなりに理解出来ましたよ、『喜緑』さん」 俺が嘆息しながらそう言うと、目前の少女の姿が電波状況の悪いテレビ画面みたいに数度ブレた。ブレが収まった時、そこに居たのは俺の推測通りの北高生徒会書記にして宇宙人の彼女である。 長門が喜緑さんで喜緑さんが長門で、でもってやっぱり長門が喜緑さんだった訳だ。物静かな外見に反して人を驚かすような登場しかしないのはギャップ萌えでも狙ってんじゃなかろうか。ああ、そんな宇宙人の戯れは正直心底どうでもいい。好きにしてくれよ、もう。 「どこで気付きました? 長門さんの構成情報は一通りインストールしてあったのですけれど」 天才的な変装でしたよ、ええ。大泥棒が喜緑さんの才能を生かすにはぴったりの職業だろうなんて我ながら下らん事を考えるくらいには。 「喜緑さん自身が言ったじゃないですか。自由は全てを思い通りに出来るんだって」 「言いましたね」 そう。繰り返すが、世界は思いのままな独裁者な少女が自由である。ならば、彼女が長門を邪魔だと考えたのだから宇宙のどこかへ瞬間移動したのは長門で間違いはない。それがあの時の宇宙人が見た目長門の喜緑さんではなかったと判断した材料その一。 「後は勘です」 思わず撫でつけてしまう、あの頭とは違ったなどと口が裂けても言い出せまい。 「勘? 有機生命体特有のファジーな感覚の事ですね。非常に興味深いです」 「いや、そんなに大それたものじゃないですよ。ただ、うちの長門は嘘を吐くような器用さも小狡さも持ち合わせてはいないんで。まあ、それがアイツの良い所でも有ると思っているんですけどね」 言うと、喜緑さんが微笑んだ。デジタル取り込みされた聖母マリアの宗教画みたいなアルカイックスマイルである。 「ふふっ」 「どうしました、喜緑さん?」 「いえ、大した事ではありませんよ」 宇宙人の言う大した事がどれだけの大事を指すのか知っているだけに、俺としては彼女の一挙一動であろうと「はあ、そうですか」と流せない。例え太陽が寿命を迎えようが銀河規模で見れば些事と言い切ってしまわれそうな歩く非常識が彼女達、TFEIである。 あ、長門は除いてな。 「本当に瑣末な事なんですよ」 「聞かせて下さい。それが下らない事かどうかはこっちで判断しますから」 分かりました、と少女は手を後ろに組んで。 「貴方の言った『うちの長門』という文脈の意味を「もういいです結構です」 ……聞かなきゃ良かった。 無意識にとは言えなんてこっ恥ずかしい事を口走っちまっていたんだ、俺は。いや、その、アレですから。深い意味の無い、同じクラブ活動の仲間とかそういう類。 谷口みたいな悪意の有る取り違えは望んでないんで! 「貴方にとってこれは大事では無いと思いますが」 人の忠告は素直に聞く事。いや、相手は宇宙人だけども。 「よく、俺にとっても些事だとか判断できましたね」 うんざりしながら聞いてみる。 「貴方達有機生命体がどのような思考をするのか、私達だって学習しているのが今のでお分かり頂けましたか?」 「学習?」 「情報の共有とプロトコル化です。お忘れですか? 私達は『対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェイス』ですから。その本分を全う出来るように、そしてまた円滑なコミュニケーションと干渉を目的として日々プログラムを更新しています。地球人類との無用な摩擦は情報統合思念体の望む所では有りません」 なるほど。つまり学習、か。 「そして、その構築に最も貢献しているのが長門さんです。恐らく、これは貴方も納得出来る所だと考えます」 宇宙人の中で一番付き合い下手な長門が、宇宙人の中で一番人付き合いを模索している事。それはなんとなく俺も気付いてはいた。が、こうして改めて第三者からその事実を聞かされると色々と感慨深い。 「はい、それはまあ」 「どうか仲良くしてあげて下さいね、これからも」 そう言って宇宙製有機アンドロイドは深々と頭を下げた。その姿は嘘みたいに、まるで長門の中にたまに見つけるものみたいに、人間そっくりで。 「頭を上げて下さい、喜緑さん。そんなのは頼まれなくても今更じゃないですか」 友人の姉ちゃんに言われているような感覚とでも言えば良いのか、そんな喜緑さんになんとなく俺は恐縮しちまっていたのだった。 そんな自分をリセットするように一つ咳払いを入れてみる。頭を上げた喜緑さんは変わらず微笑んでいた。 「そうですね。今更ですね」 「ええ」 と言うか、肝心要のその長門が今まさに宇宙の大海原を漂っている以上、コンタクトの取り様が無い。喜緑さん、長門はちゃんと地球に帰ってこれるんですか? 「大丈夫ですよ。朝倉さんも一緒ですし、帰還における問題らしい問題は今の所観測出来ていませんね」 「はあ。で、具体的にアイツらはいつ頃戻ってきます?」 遅くともクリスマスイブまでには帰ってきて貰わないと、今度はハルヒが癇癪を起こすのは眼に見えている。余計ないざこざを避ける為にも、SOS団クリスマスパーティには出席して欲しいというのは切実なる願いだ。 「少し待って下さい。仮に算定してみます」 喜緑さんはそう言って眼を瞑った。別に彼女に願った所で長門の到着が早くなる訳ではないのだが、それでも少女が今一度口を開くまでの間、神様にも祈るような心地になっちまってたのは否めない。 計算終了を示すように宇宙人がその大きな瞳に俺の姿を映す。そのまま彼女はにっこりと、長門には真似出来ない感じに大きく笑った。 「早ければ明朝にでも」 近いな、宇宙。 そんな、夜行バス程度の感覚で銀河を股に掛けて貰ってはNASAの立つ瀬が無い。本当に冗談みたいな彼女達だった。 「私達が冗談なら『彼女』や涼宮さんは一体どう表現するのか、少し興味が有りますね」 「ああ、それなら」 これは谷口の受け売りなんですが。 「そりゃアイツは涼宮ハルヒだから、でそっちは済ませて仕舞えるきらいが有るんですよ」 なんですかそれ、と。いやまあ、喜緑さんにはちょっと理解に苦しむかも知れませんが。それでもSOS団やその周りではこれで通じてしまうんで。 少女は少し眉をへの字に曲げて。コンピ研部長氏の捜索を依頼してきたあの時みたいな顔をした。 「なら、『彼女』はどうです?」 彼女――自由と名付けたあの少女。どう表現すればいいのか。冗談(ウチュウジン)よりも冗談みたいな、神様(ハルヒ)よりも神様めいた、けれど深い陰を背負った。 「分かりません」 俺にはまるで分からない。 「でも、知りたいとは思います」 分からない事を分からないままにしておいたら、一生分からないままだと涼宮ハルヒは問題集に赤ペン引きながら俺に言った。 分からない事を分かるようになる事が、どれだけ人生を豊かにするのかを佐々木は手製プリントを解説する合間に俺に説いた。 俺は思う。 「アイツは助けを求めているように見えた。勿論、これは俺の見当違いかも知れない。でも俺はもう、そうやって訝しんじまった」 眼を縁取る深い隈は、ソイツが深く悩んでいる何よりの証。世界を変えるほどの苦しんでいるんじゃないかって。 「だったらとりあえず話くらいは聞いてやんないと。殺されかけたのに何言ってんだって感じですけど」 だけど、喜緑さん曰く、俺は実際殺されかけてすらいないのだ。自由のやった事はただの脅し、茶番でしかなかった。 「もしも」 SOS団は世界を大いに盛り上げる涼宮ハルヒの団の略。 団員その一として俺が取るべき行動なんざ決まってる。決まりきっている。俺達の掲げる横暴なる団長サマが背中から叫ぶんだ。 キョン、不思議を探しに行くわよ! 有希、着いて来なさい! みくるちゃん、何か面白いことない? 古泉くん、アタシは何も起きない日常にはもう飽き飽きしてるのよ! 「もしも、これがハルヒだったら」 前しか見ていない、猪突猛進。俺達の首に縄引っ掛けて、ずるずる引っ張っていくあの馬鹿のせいで。いつしか前向いて走るのが当たり前になっていた。 「そんなのに絶対に怖気付いたりしないでしょう?」 苦笑いでも、強がりでも、喜緑さん向けて笑えたのは……ああ、なんだ。 俺もこの一年半でしっかり成長しちまってんじゃねえか。 「そうなんですか?」 「そうなんですよ、困った事に」 血潮に流れるSOS団主義(ハルヒズム)。ああ、我ながら困ったモンだ、本当に。 「それを聞いて安心しました」 そう言った喜緑さんの姿がジジジと音を立てて歪み、俺の見ている前で彼女は再び長門そっくりの姿へとモーフィングした。 ただし、そっくりなだけで彼女は長門ではないし、最早俺は彼女と長門を取り違える事もないのではあるが。俺の知っている長門はこんな風に表情豊かに微笑んだりは決してしない。そうだろ? だから……だからその顔で、その顔をして笑わないで貰いたいと、なぜだか俺はそんな風に思った。外見長門中身喜緑さんのそのはにかんだ笑顔はなんとなく、俺の心に寂しさのような、罪悪感のようなえも言われぬ感情を植え付ける。 それはあの十二月の残滓か、もしくは残響。どうやら一年経ってもまだ拭い切れてはいないらしい。いつまでも引きずっていてはいけないと頭では分かっているのだがな、あの世界の事は。 「そう言えば」 沈黙していると後悔の波に浚われそうになる俺は、救命浮き輪に捕まるようにふと浮かんだ疑問をそのまま口に出していた。 「なぜ、長門の姿で俺たちの前に現れたんですか?」 とっさにしては、しかしてもっともな疑問だと自分でも思う。なぜ喜緑さんとして自由の前に出る事を彼女はしなかったのだろうか。その行為の必要性を俺にはどうも見出せない。ドッキリ、なんてものが宇宙人に理解出来るとは思えないしな。 「一番これが効果的だったからです」 効果的? どういうこった。俺の心臓の寿命を縮めるのに、とかって悪趣味なオチしかその言い方からは思い付けないぜ。もしかしなくてもやっぱり喜緑さんは朝倉、九曜に次ぐ第三の宇宙からの刺客だったりすんのかね。 「よく分かりませんが、それは有機体独特の冗談か何かでしょうか?」 「ジョークにしては少しブラック過ぎやしませんか。俺には自虐趣味も有りませんよ。それで、長門に成り変わっていた説明は貰えないんですかね、……ええと、喜緑さん?」 ううむ、どうも長門の姿をされていると喜緑さんと呼ぶのに抵抗が有るんだよなあ。頭では区別出来ているつもりなんだが。ヒトの認識において視覚情報の占める割合って七割くらいだったか? そりゃ仕方が無いかも知れないな。 「いいですよ。と、言いますか私が貴方に個人的にお話したかった事というのはそもそも『それ』ですから」 「そう言えば、話が有るからって古泉と自由を先に行かせたんでしたか。話ってなんです?」 「渡橋さんのことを」 ゴクリと音を立てて無意識に喉仏が一度、上下に動いた。それは……こっちから頼み込んででも聞かせて貰いたい内容だ。ああ、是が非にでも。 「もう少し言葉を足すと彼女の持つ願望実現能力についての話です」 「願望……やっぱり、アイツの持つ力ってのはハルヒと同種のもので間違いないんですか」 俺がそう聞くと、けれど宇宙製有機アンドロイドの少女は眉に皺を寄せて即答を避けた。どうしてだ? 答え難い質問を俺は今、しただろうか? 「それは私には判断出来ません」 「どういう事です?」 「貴方達に多次元空間が認識出来ないのと同じです。より高位のものは正確に測定する事が極めて困難なので」 そう言われて思い出すのは古泉の奴がいつだったか放った言葉だ。ええと確か、長門達がゲストでハルヒがアドミニストレータだとかなんとか。その例えで果たして正しいのかなんてのは俺には分からない訳だが、それにしたって上位下位の関係は喜緑さんの口振りだとそこには頑として存在するらしい。 情報操作能力は願望実現能力よりも制限が多いと考えれば、確かにそれは納得出来ないではない、か。……いや、素人考えだな。大体、俺に正確に理解出来る内容とも思えん。 「ですから涼宮さんと渡橋さんの力が同種かと問われても、統合思念体としては回答が出来かねます。あの二人の持つ力において合致する部分が何万カ所見受けられるとか、もしくはそれを数ではなく割合で伝える事も、これは出来なくは有りません。しかし、0,01がどれだけ大きな差異であるのかも私たちには分からないのです。だからこれは無価値な情報でしょう」 ま、たった一パーセントの違いで生物としてのカテゴリすら変えてしまうらしいしな。遺伝子とゴリラと人間の、ソイツはとても有名な話だ。 だが、この口振りだとハルヒと自由の力にはかなりの共通項が有るらしい。それが分かっただけでも収穫だ。 「……なるほど。貴女たち宇宙人にもハルヒの事はよく分からん、と俺なりにざっくり解釈させて貰いましたが」 ざっくり過ぎただろうか。だが、喜緑さんはそんな俺の言葉にも眉を顰める事無く頷いてみせた。 「ええ。そして分からないからこそ、私たちはこの星に涼宮さんを観測をしに来ている。これは大前提ですね。話を戻しますが、先ほどの彼女、渡橋ヤスミさんには少なからず願望実現能力と呼ばれる類の力が宿っています」 願望実現能力。それは願いを叶える力。夢を現実にする力。そう考えたら別にハルヒや自由に限った話じゃなく、地球人類なら誰しもが多かれ少なからず持っているものの延長線上のような、なんだかそんな気がした。だがまあ、喜緑さんはそんな事を言っているのではないよな。分かってる。こんなのは只の妄言だ。 「その力は貴方もご存じだと考えますが、絶対です」 ああ、なんて胸糞悪い話だ。この件に関しては喜緑さんは全く悪くないのだが、それでも言葉を紡ぐ彼女を見る眼に自然と力が入っていくのを俺は感じていた。 「つまり、彼女の思うがままにこの世界はなってしまう。彼女、渡橋ヤスミさんが望む世界の行く末は、『変化』だそうです。長門さんがそう言っていました」 「長門が!?」 「はい。これは」 喜緑さんが何を言うのか。続きは聞かなくても分かった。当ててみせようか。 「彼女の望みなので絶対です」だろ。 「彼女の望みなので絶対です」 で、次に喜緑さんは残酷に宣言するんだ。「絶対に叶います」ってな具合に。 「絶対に実現します」 となると、後はもう死刑宣告だよな。「世界はもう変化を避けられません」とか言っちまってさ。 「世界はもう変革をさけられません」 何を言っても世界は結局、神様の掌の上。無駄な抵抗。無意味な徒労。人生は諦めが肝心。そんな事は言われなくても知っている。これでもかってぐらい。 さあ、そしたらどうにもならないこの現実に、打ちのめされた俺に向かって「どうしますか?」とかそんな追い討ちを掛けるんだろうぜ、この宇宙人は。 「どうしますか?」 アイツが万能だとか、全能だとか、為す術が無いとか、そんなの。 そんなの俺の知った事か。 「どうとでもしますよ」 ハルヒの同系なら、多分「いつも通り」なんとかなるんじゃないかって。 俺の頭の片隅で経験則がそうがなり散らしてる。 「そうですか。私には彼女はどうにも出来ません。ですが、貴方には出来るのでしょうね、きっと。だから私にあんな事をさせたのでしょう、長門さんは」 長門有希、地球人に一番近しい(と俺が勝手に考えている)宇宙人。俺の最も信頼する少女。 「前置きが長くなりましたね。先ほど、私が長門さんの振りをして渡橋さんの前に出た理由は、彼女に『願望実現能力は絶対ではないのでは無いか?』とその持っている力に疑問を抱いて貰う為です」 「……え? いや、願望実現能力は絶対なんですよね?」 喜緑さんは肯定と共に首を縦に振る。 「はい。彼女が『それ』を当然と考えている限りは」 それ――つまり、「自分の願いが叶う事」を当然だと考えている限りは。逆説、アイツがその力を信じられなくなったら!? ああ、こうして言われるまで気付けなかったなんて、俺はとんだ阿呆だ。 ハルヒに一年半も付き合っておきながら俺は一体何を見てきたって言うのか!! 「糸口、と。長門さんは私との入れ替わり劇をそう表現しました。彼女――渡橋さんの中には疑念が生まれた筈ですよ」 自分の思い通りにならない初めての現実に対して、直面して、確かにあの時の自由は当惑していた。 「それはきっと長門さんの思惑通りに」 「……長門が?」 「ええ」 「本当に? アイツがそこまで考えていたって言うんですか?」 宇宙人が、地球人を――。いや。俺だけはそんな事をアイツに向けて言っちゃいけない。長門は、宇宙人とかアンドロイドだとか、それ以前に長門なんだ。そう分かってんのに。それでも俄かには信じられない。 そんな俺の疑念を、目の前の宇宙人は簡単に吹き散らす。 「ええ。言いましたよね、私。対有機生命体コンタクト用コミュニケートシステムを構築する上で、最も貢献しているTFEIが誰なのか。そして貴方も納得した筈です、あの時は」 有無を言わさぬ微笑みは。どっか責められているような気にさせられるのは。これは一体どこが出所だ? 「そして、その長門さんから貴方宛てのバトンが私のあのお芝居です。彼女から伝言を預かっています。『あなたに託す』と」 言われて思わず笑いが漏れてしまう。一年半振りだな、託されるのは。託したのはなんだ、長門。目的語はあえて省いたんだろ。それは言わなくても分かるはずだし、また取り違えようもないからだ。 SOS団の今後。それとも長門自身の未来。もしくはクリスマスの破滅の回避。どれでもいいさ。どれだって大した変わりは無いのだから。 「受け取って頂けますか?」 宇宙人三人娘は渡橋に疑念を植え付けた。後は俺がそれを確信に変えさえすればいい。それできっと世界は変わらない。願望実現能力が実は絶対では無いと、少女にそう思い込ませるのが俺の仕事。 ハルヒ相手と、それはそう大差無い。俺の――俺達SOS団の十八番だ。 「長門に伝えて下さい」 喜緑さん(紛らわしいが見た目は長門)が眼を瞑った。多分、宇宙空間に電話線でも緊急構築してんだろう。 なあ、聞こえているか、長門。 バトンとやらは確かに受け取ったぞ。 「後は任せろ。以上です」 数秒後、少女は眼を開いた。そして長門そっくりに、ありがとうと一言だけ口にした。その一言で俺には十分だった。宇宙の果てから送られてきた、その一言だけで。
https://w.atwiki.jp/keroro00innovator/pages/3565.html
未来の僕らは知ってるよ 未来の僕らは知ってるよ アーティスト Aqours 発売日 2017年10月25日 レーベル ランティス デイリー最高順位 1位(2017年10月25日) 週間最高順位 1位(2017年10月31日) 月間最高順位 1位(2017年9月) 年間最高順位 7位(2017年) 初動売上 63491 累計売上 81618 ゴールド 週間1位 月間1位 収録内容 曲名 タイアップ 視聴 1 未来の僕らは知ってるよ ラブライブ! サンシャイン!! OP 2 君の瞳を巡る冒険 ランキング 週 月日 順位 変動 週/月間枚数 累計枚数 1 10/31 1 新 63491 63491 2017年10月 1 新 63491 63491 2 11/7 4 ↓ 8203 71694 3 11/14 15 ↓ 1956 73650 4 11/21 12 ↑ 2750 76400 5 11/28 ↓ 1159 77559 6 12/5 1013 78572 2017年11月 16 ↓ 15081 78572 7 12/12 606 79178 CD/総合ランキング 週 月日 CDシングル 総合シングル 順位 週/月間枚数 累計枚数 順位 週/月間枚数 累計枚数 8 12/19 515 79693 515 79693 9 12/26 529 80222 529 80222 10 18/1/2 462 80684 462 80684 2017年12月 48 2112 80684 2112 80684 11 1/9 506 81190 506 81190 12 1/16 220 81410 220 81410 13 1/23 208 81618 208 81618 ラブライブ! OP 前作 サンシャイン 次作劇場版 青空Jumping Heart 未来の僕らは知ってるよ 僕らの走ってきた道は… 関連CD 勇気はどこに?君の胸に! SUMMER VACATION
https://w.atwiki.jp/reiari/pages/46.html
レイアリの軌跡 アリスというキャラクターが初めて登場したのは、東方Project第五段「東方怪綺談」。 俗に言う「旧作」最後の作品である。 アリスは3ボス・EXボスとして登場し、プレイヤーを苦しめた。 特にEXアリスは旧作の中でも厳しいボスとしてよく名をあげられる。 プレイヤーキャラは霊夢の他に、魔理沙、魅魔、幽香が使用可能。 EXクリア後には、それぞれのキャラクター専用のエンディングを見ることができる。 各ステージ・EDでの霊夢とアリスの会話文は、こちらからどうぞ 東方怪綺談3面の会話 +... 靈夢 :一体何処に行けば良いのか しら(汗) ?? :そこまでよ! アリス:あなた、少しやりすぎよ もう少しおとなしく出来な いの? 靈夢 :私が一方的に攻撃受けてる だけよ! (そうでもない) アリス:人間がここにきたってこ とは、覚悟はできてるんで しょうね!! 靈夢 :まぁ、出来てるような(汗) アリス:なによ、その気の抜けた 返事は(汗) 靈夢 :負ける覚悟は出来てないっ てことよ(はぁと) アリス:その自信は何処から来る のかしら? とにかくいくわよ!! 戦闘終了後 アリス:なにものよ、あなた・・ 靈夢 :次はどこかしら(はぁと) 東方怪綺談EXの会話 +... アリス:やっときたわね。 靈夢 :!? アリス:久しぶりね。 靈夢 :どっかであったっけ? アリス:あなたを倒すためにわざ わざこっちに、やってきた のよ! 靈夢 :それはごくろうさまね アリス:そのために、色々な魔法 を覚えてきたのよ。 靈夢 :今、本見てるじゃん アリス:見ながらじゃなきゃ出来 ないほどの、ものすご~い 魔法なのよ!! 靈夢 :ものすごい? アリス:そう、いま見せてあげる わ!! 戦闘終了後 靈夢 :だから~、私には勝てない って(はぁと) アリス:う~ん、もうあんたとは 絶対やんないわ(泣) 東方怪綺談EDの会話 +... 靈夢 :じゃ、そっちの掃除が終わったらこっちの方お願いね アリス:しくしく 靈夢 :返事は? アリス:なんで、私がこんなことしなきゃならないのよ~ 靈夢 :なんか文句あるの?弱いくせに。 アリス:ごめんなさい 靈夢 :あんたにはこっちの世界で暴れた罰として、うちでしばら く働いてもらうからね アリス:しくしくしく~ 結局、魔界の魔法使いも、靈夢にはかなわなかったようです。 そして、アリスがアリス・マーガトロイドとして蘇ったのが東方Project第七段「東方妖々夢」である。 こちらの会話文は載せさせていただく。 なお、レイアリwikiなので霊夢との会話のみを載せるので、魔理沙や咲夜との会話文が見たい人はググって欲しい。 妖々夢3面の会話 +... 霊夢「夜は冷えるわね」 霊夢「視界も最悪だし」 アリス「冷えるのは、あなたの春度が足りないからじゃなくて?」 霊夢「いや、足りないかもしれないけど」 アリス「しばらくぶりね」 霊夢「しばらく巨人?」 アリス「私のこと覚えてないの?まぁ、どうでもいいけど」 霊夢「それはともかく、春度って何?」 アリス「どれだけ、あなたの頭が春なのかの度合いよ」 霊夢「あんまり、高くても嫌だなぁ」 霊夢「でも、どうしてこんなに冬が長くなったのよ?」 アリス「春度を集めてる奴が居るからよ」 霊夢「あんたは関係ないわけ?」 アリス「あるわけないわ」 霊夢「じゃ」 アリス「ちょっと!」 アリス「折角、旧友と出あったと言うのに、手土産はあんたの命だけかい?」 霊夢「誰があんたみたいな七色魔法莫迦と旧友なのよ」 アリス「所詮、巫女は二色」 アリス「その力は私の二割八分六厘にも満たない」 戦闘終了後 霊夢「春度っていうのは」 霊夢「この桜の花びらのことかしら?」 アリス「判ってて集めてたんじゃないの?」 霊夢「いや、まぁ、うん」 この他に公式で霊夢とアリスが絡んだのは、永夜抄での4面、萃夢想および同作品でのアリスED、緋想天、非想天則となっている。 それぞれのセリフも、作品別に載せておく。 永夜抄4面・禁呪の詠唱チームの会話 +... 霊夢 ちょっと待て! 何だ、何時までも夜が明けないから おかしいと思ったら、 魔理沙の仕業ね。 魔理沙 おい、誤解だ。 悪いのはこいつ一人だぜ。 アリス 何よ。 あんたも同罪でしょ? 霊夢 こんな事して……、 一体何を企んでるのよ。 魔理沙 あれだな、ほら。 霊夢、なんと言うか……。 アリス 歯切れが悪いわね。 いつもみたいに言えばいいじゃない。 邪魔だ、そこをどけ! ってね。 魔理沙 馬鹿! こいつを怒らせると不味いぜ。 霊夢 私を怒らせる事自体が不味い事でしょ? 今日はちょっと懲らしめてやらないと いけないわね。 アリス ふん。 あんた、後ろ見てもなんとも思わないの? もう、歪な月もこんなに判り易く なってるじゃない! 霊夢 ああ! この月も、あんたらの仕業ね。 魔理沙 ああ、もういいぜ。諦めたよ。 そうだ。 この終らない夜も、欠けて歪な月も、 消えた人間の里も、 お地蔵さんに傘かぶせて廻ったのも、 全てはアリスがやった。 さぁ、そこをどきな! 霊夢 まぁいいけどね。 月の光を蓄えたこの竹林で、 あんたらは、光る竹の一つになる。 美しいわね。 アリス その言葉、ちょっと屈折させて お返ししますわ。 霊夢 さぁ! 終らない夜は、ここでお終いよ! 魔理沙 あれ? 逃げるなんてあいつらしくないな。 アリス 追うわよ。魔理沙。 霊夢 さぁ、あんたらに、本当の結界を 見せてあげるわ。 魔理沙 何で仕切りなおす必要があったんだよ。 霊夢 そっちが二人だから二回! 魔理沙 さぁ急ぐぜ。 アリス 目的地が見えてきたわ。 霊夢 仕様が無いわね。 悪巧みも程ほどにするのよ。 アリス なんか言った? 魔理沙 へぇ。竹林の中にこんな大きな屋敷がある なんて、初めて知ったぜ。 霊夢 あー? 私も初めて見たわ。 アリス じゃぁね。 良い子と負け犬はここでお帰りね。 魔理沙 霊夢、永遠の一回休みだ。 じゃぁな。 萃夢想・霊夢ストーリー2面の会話 +... 霊夢 ああもう、すっかり暗くなっちゃったわ。 魔理沙となんか遊んでたから……。 それにしても、帰り道長いわねぇ。 この道であってるのかしら。 アリス あー。こんな所に珍しい顔ね? 人間自体も珍しいけど。 霊夢 私のフリを無視して出てきたわね。 アリス あー?あってませんよ~。帰り道! 霊夢 そうそう、あんたもだったわね。 アリス 今度は何の話? 霊夢 あんたが犯人の話。 アリス ……容疑者じゃないの? って、そもそもなんの話なのかさっぱりだわ。 霊夢 あんた気付いてないの? 今、何が起きているのかわからないの? それに、容疑者は犯人よ。 それともあんたは犯人じゃないの? アリス 何言ってるのかさっぱり判らないけど…… もしかして、最近の宴会の事? 私もおかしいと思ってたのよね……。 幾らなんでもねぇ。 霊夢 どうもおかしいわ。 いくら騒ぐ事が好きな連中ばかりでも、 あんたまで好きとは思えないし。 アリス 何よそれ。 霊夢 というか、一番怪しいのよね。最初から。 戦闘終了後 霊夢 ああもう、やっぱりあんた関係無いじゃん。 とんだ道草だったわ。 アリス 突然現れて、 人を勝手に容疑者にして、 勝手に攻撃しかけてきたくせに…… 霊夢 容疑者じゃなくて犯人よ。 アリス ……もう勝手にして。 霊夢 最初から勝手にしてるわよ。 ところで、暗くて帰り道が分からないんだけど…… 萃夢想・アリスストーリー2面の会話 +... アリス 霊夢なら何か知っている筈。 曲がりなりにも妖怪退治を生業としている筈の、 巫女なんだからね。 霊夢 あれ? こんな時間に何の用かしら? 夕食ならもう済ましたわよ。 アリス 何で私が乞食の様な真似をしなきゃいけないのよ。 霊夢 森に住んだり、夜、神社に忍び込むのは大抵、 物乞いなのよ。 アリス それはおいておいて、霊夢。 この幻想郷を包む妖気の事なんだけど……。 霊夢 ん? 妖気? アリス 何で放っておくのかなぁと思って……。 霊夢 妖気……? ってこれが何か危険な事でも? アリス いつもだったら大騒ぎするあんたが、何故今回は動 かないのかなぁと。 霊夢 だって、困った事が起きていないから。 まぁ、宴会が多すぎるのには困ってるけど。 アリス 怪しいわ。これほど怪しい霊夢は、たまにしか見か けないわね。 戦闘終了後 アリス で? 本当に何か情報は持っていないの? 霊夢 本当よぉ。だって大して危険も感じていないし。 アリス うーん。妖怪退治って殆どしないから、何処が妖気 の発生源なのかもわからないわ。 霊夢 妖怪退治って……そりゃあんた、 人間じゃないもんね。 でもこの妖気の発生源ねぇ。 今回は私にもわからないわ。何でだろう? アリス 霊夢から勘を取ったら何が残るって言うの? 全く、サボってばっかりいるから勘が鈍るのよ。 萃夢想・アリスEDの会話 +... ――博麗神社。幻想郷の辺境に存在している神社である。 夏の日差しはますます強くなり、蝉の鳴き声もここぞとばかり大きくなっていった。 博麗神社は、幻想郷でも最も四季の変化が顕著に表れる場所である。 夏は暑く、冬は寒い。春は桜が見事で、秋は食べ物が美味しい。 ただ神社には、その自然の変化より四季の変化を感じさせる人が居る。 これを目当てに神社に遊びに来る者もいるだろう。 霊夢 「暑いわねぇ。こう暑いと境内の掃除はしたくなくなるわね」 アリス「さっきから掃除をしようとして無いじゃないの」 霊夢 「ちょっと休憩よ」 アリス「貴方を見てると、夏が来たって実感できるわ。 分かり易すぎるもの」 霊夢 「ちょっと休憩だっていってるでしょ? あんたは暑くないの? アリス「この程度、何てこと無いわ。人間と違って、この程度の気温の違い なんて言われなきゃ気が付かない位よ」 霊夢 「これだから、変温動物は困るわ」 アリス「温度は変わらない」 霊夢 「そう言えば、前の妖気騒ぎは結局どうなったのよ?」 アリス「あぁ、あれ? あれはねぇ……湖の血だってさ。 私たちは、血の匂いに集まる魚」 霊夢 「また訳判らない事をいう」 萃香 「そんな事より、次に宴会するのはいつ~」 霊夢 「暑いしねぇ。みんなダレてるんじゃない?」 萃香 「でも、私が幹事をすれば必ず集まるわよ」 アリス「って、それは禁止って言ったでしょ? 暫くは大人しくしてなさい」 霊夢 「?」 萃香 「もう、退屈だなぁ」 霊夢 「退屈なら境内の掃除でもしない?」 萃香 「報酬はあるの?」 霊夢 「境内で何か見つかったらあげるから」 萃香 「え~。こんな神社に何もないでしょ? まぁ掃除なんて5秒で終わるからいいけど」 霊夢 「5秒?」 アリス「確かに5秒で終わるんでしょうね」 結局、霊夢は見ていなかったが、3秒位で境内中のゴミが集まっていた。 萃香は一瞬でゴミを集めた分、ゴミの物色に時間を当てていた様だった。 30分ほどして戻ってきたが…… 結局何も見つからなかった、という顔をしていた。 それでも霊夢は、5秒じゃないけど確かに早かったね、と言っていたが…… 鬼の力は恐ろしい物である。 ただ、この力はアリスにとって羨ましい以外の何物でもなかったのだ。 そう、蒐集家としてこれ程羨ましいものはない、と。 萃夢想・対戦後霊夢の勝利台詞 +... 人形って言えば、この間、 神社の裏の木に打ち付けてあったけど、あれもあんたのかしら? 萃夢想・対戦後アリスの勝利台詞 +... ああもう!貴方相手じゃ、人形が幾つあっても足りないじゃない。 緋想天・霊夢ストーリー2面の会話 +... 霊夢 どうも地震は神社でしか起きてなかったみたいね それに魔理沙の周りだけ降っている雨 あの雨を降らしている雲は緋色だったわ…… これらの天変地異 自然の出来事だと考え難い ? 森に入ってくるなんて珍しいじゃないの 霊夢 (異変の事は人間以外には内緒にしないとね) え、ええ。まぁその アリス 何よ、その異変を解決しようとしている みたいな返事は 霊夢 何を言っているのかしら そう、最近の森の天気はどう? アリス 変な質問ねぇ 最近の天気はおかしいわね 毎日、雹が降ってくるじゃないの 霊夢 雹だって? 雹なんて…… アリス あ、ほら、また…… 霊夢 (また、緋色の空だわ) あら、本当 アリス 異変なんでしょ? 霊夢が森にまで来るなんて 霊夢 怪しいわね それらしい事言ってないのに…… 何か隠してるんでしょ? アリス と言われてもねぇ 霊夢 何か変ね 異変の香りがするなぁ アリス 疑うのは結構 でも、さっさと解決しないと神社を 破壊されても知らないよ? 戦闘終了後 霊夢 何で、神社が壊れた事を知ってるのよ アリス あれ?壊れてたの? 霊夢 しらばっくれて、もう…… 緋想天・アリスストーリー1面の会話 +... アリス ああ、間に合わなかったわ 私の予想は正しかったのだけど…… ? 誰! 何だ、あんたか アリス やっぱり地震、起きたのね? 霊夢 やっぱりって何よ アリス 最近良く見る緋色の雲 それと大粒の雹 これらは地震の宏観前兆なのよ 霊夢 緋色の雲? 雹だって? アリス あれ?雹が止んだ…… ここの処、降り続きだったのに 霊夢 地震が起こるってわかってたのなら 教えてくれても良かったのに! 戦闘終了後 アリス 私だってまだ調査中だったし こんなに早く地震が起こるとは…… 霊夢 はあ アリス でも、まだ予兆は消えていない 地震はまだ起こるかも…… 油断は出来ないわ 緋想天 非想天則・対戦後霊夢の勝利台詞 +... ・ちゃんと人形供養してる? 人の形をした物には色んな物が宿るわよ? ・副業で人形供養を始めれば儲かるのかな? ま、供養ってお寺の用語のような気がするけど ・髪の毛伸びる人形ってよくあるけど アレも糸で操作してるの? 髪の毛一本一本 緋想天 非想天則・対戦後アリスの勝利台詞 +... ・貴方ももっと自由に使役できる味方を増やした方が いいんじゃない? 緋想天プレストーリー2面の会話 +... 霊夢 迷いの竹林より魔法の森の方が迷いやすい気がする 帰り道はこっちであってたっけ? ? おや珍しい顔 霊夢 あ、ちょうどいいところに…… って もしかして雹? アリス 丁度いいところって、道に迷ったのね? それはともかく、雹は困るわよねぇ 雹害も馬鹿にならないし…… 霊夢 あんまり雹なんて降らないけどね アリス そう? 最近、毎日雹が振るわよ? 霊夢 魔理沙のところは雨続きって言ってたし 魔法の森全体が腐ってるんじゃない? それはともかく、帰り道なんだけど…… アリス 道に迷ってただで帰れると思ってたの? 霊夢 ……まあいいけどね 戦闘終了後 霊夢 さ、帰り道を教えて! アリス はいはい、人形を一人付けますよ それにしても……この雹といい おかしな色の雲といい…… 私の予想が当たってなければいいんだけど…… 霊夢 あんたの予想なんてどうせ当たらないから
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/3420.html
私はゆっくりを三匹飼っている。 結構な年をめしているゆっくりまりさと、成体と子ゆっくりの境ぐらいの、ゆっくりれいむとゆっくりありすである。 ゆっくりに詳しい人ならば察しはついていると思うが、ゆっくりまりさとゆっくりれいむは実の親子であるが、まりさとありすは餡が繋がっていない。 ありすとれいむは半分餡が繋がっている。 そう、ありすはレイパーありすに親れいむが襲われた結果生まれた子だった。 夜、夕食が終わった後私は飼っているゆっくり三匹と共にゆっくりした時間を過ごしている。 甘い物(ゆっくりに合わせて)でもつまみながらゴロゴロしてテレビを見るのだ。素晴らしき怠惰な時間。 それほど長い時間許されるわけではないが、短い間ながらもこの時間は至福の時である。ゆっくり達もこの時間は大好きなようだ。 「ゆゆ~、おにーさん、ゆっくりチャンネルをかえてねっ」 まりさが横になっている私の腰元によりかかりながら言った。ちょうど見ている番組が終わって、その後に放映される番組はあまり面白くない。 よって私はまりさに同意し、テレビのチャンネルを変えようとする。 「ありす~、リモコンとってくれ~」 私の声に顔を向けていたありすが「ゆっ?」と振り返る。 一拍置いて「ゆっくりわかったわ!」と応えてリモコンをとろうとするが、 「ゆっ? ゆっ? リモコンさんどこにあるのかしら?」 見つからないようでその場でキョロキョロしている。 「ありす、リモコンさんはしんぶんさんのうしろだよ!」 そんなありすに、うつ伏せに横になっている私の背中に乗るれいむ──ありすの姉が助け舟を出した。 れいむの言葉通り死角になっていた新聞の裏を見て、そこにあったリモコンを口に咥えてありすはリモコンを持ってきてくれた。 「はいっ、おにーさん」 「ありがと、ありす」 ありすからリモコンを受け取り、適当にチャンネルを変えていく。 特にめぼしいものはやっていないか、と思いながら変えていくと、ゆっくりを題材にしたドキュメンタリーが放映されていた。 他の人よりゆっくりに興味のある私は自然とそこでチャンネルを変える指を止め、ゆっくり達もその番組に興味を抱いたようなので、結局その番組を見ることにした。 その番組の主役は、野生のゆっくりの一家のようだった。まりさとれいむの番だ。 冒頭でなんと、れいむがが狩りに出ている間にまりさがレイパーありすの襲撃を受けた。これには私もゆっくり達も驚いた。 ゆっくりは突然の強姦現場に。私はこんな場面をゴールデンで流してよいのかという思いで。 『い゛や゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!! やべでぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!!』 『んほぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!! ありずのあい゛をうげどっでぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!!』 動物の交尾もテレビで放送しているから良いのかもな、と私が思い直していると、テレビを見ていたありすが「ぷんぷん!」と頬を膨らませていた。 「レイパーはゆっくりできないわ! とかいはじゃないわね!」 そのありすの言葉に、私もまりさもれいむも何も言わない。 ありすは自分がレイパーありすから生まれた境遇からか、いわゆる『性的なこと』に普通のゆっくりよりも強い嫌悪感を抱いていた。 特にレイパーありすは許せないらしく、昔、外に散歩に連れて行った時に見たレイパーありすの強姦現場に割って入ってレイパーありすを倒そうとした。 その現場はありすではなく私が止めた結果になったが、とにかく、ありすはレイパーが嫌いだった。 テレビはレイパーありすが好き放題すっきりし、襲われたまりさが息も絶え絶えになっているところだった。 ありすはそのままれいむとまりさの巣を出て行って、巣に弱ったまりさが残される。 れいむが狩りから帰ってきてその事実を知るのはこの二時間後らしい。編集でカットされたため見ている側としてはすぐ後に見えるが。 狩りから帰ってきたれいむは、弱っているまりさと膨らんでいるお腹で何が起こったのか察したらしく、怒り狂った。 だが怒りよりもまりさへの心配が強いのか貯蔵していたエサと飼ってきたエサを与えたり、かいがいしく看護をし始めた。 ここで場面はまた飛ぶ。今度は二日後だった。 まりさは元々病弱だったのか、はたまた襲われたダメージが酷かったのか、れいむの看護がありながら二日経ってもあまり回復はしていないようだった。 そうして、その後急に産気づいたまりさが己の命と引き換えに一つの命を生み出した。まりさの腹から生まれたのは、ゆっくりありすだった。 子ありすが生まれたと同時に息を引き取ったまりさ。テレビの中のれいむは「ばりざぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!」の滂沱の涙を流していた。 うちのゆっくり達も「ゆぐっ、えぐっ」ともらい泣きをしていた。後姿のため泣き顔は見えないが。感受性の強い子達である。 さて、どうなるのかと私は思う。 れいむはどうするのか。この子ありすを育てるのか、それともレイパーの子、まりさの命を奪った子として殺すのか。はたまた捨てるか育児放棄か。 どれをとっても、正解ではないし間違いではない。レイパーありすの事件なんて珍しいことではない。 その場合の被害者となったゆっくり達も、生んだゆっくりもいただろうし、堕ろすか、堕ろす術を知らなかったら産んだ後殺したゆっくりもいるだろう。 どっちが正しいのか。それは一概には言えない。正解なんてないのかもしれない。 それでも、産んで愛情をもって育てるのは稀な方だろう。そしてこのれいむは稀な方だった。うちのまりさと同じく。 番組のれいむはまりさが命と引き換えに残した子ありすを我が子のように大切に育てた。 泣いたらあやしてやったり、エサを採ってきて食べさせたり、ゆっくり出来ない事を教えてあげたり。 ありすはそんなれいむの愛情を受けて、すくすくと育った。このまま幸せに、何事も無くすごしていければ幸いなのだろうが、そうなると番組があまり成り立たない。 案の定と言うべきか、問題が起こった。まりさがレイパーありすに襲われ、そうして生まれた子供をれいむが育てているのは、群れのゆっくり達に広まったらしい。 決して表立っては言われなかったが、陰で色々と他のゆっくり達が噂している場面がテレビに映る。 曰く、『自分のではない子を育ててゆっくり出来るのか』と。 そんな噂は、ありすの耳にも届いた。薄々感づいていたらしく、自分が育ての親であるれいむの子ではないと分かると、やっぱりといった顔をした。 ゆっくりの表情は本当に分かりやすい。 ふと、そこで私はテレビを見ているありすの後姿を見る。この番組を見て、ありすはどう思っているだろうか。 いくら思考が単純なゆっくりと言えども、私とは他の生物だ。その気持ちを完全に推し量ることは出来ない。 ただ、ありすの後姿からは私はなんの情報も読み取れなかったがので、再び視線をテレビへと移した。 番組ではCMを明けて、子ありすと親れいむが喧嘩している場面から始まった。 どうやら何処かに行こうとしているありすをれいむが必死に止めようとしているらしい。 そしてその何処か、とはありすの実の親であるレイパーありすの所らしい。 実の親に会いたい。その気持ちは分からないでもないが、それでは育ての親であるれいむが軽視されている気がした。 ありすは必死に実の親を探しに行くといい、れいむはそれを懸命に止めようとしている。行かないでくれ、と。 ゆっくりは実の親子であれば顔を見ればすぐに相手がそうと分かるらしい。不思議な生態だ。 だからありすも実の親と直接会えれば分かるだろうから、決して無謀というわけではないだろう。 だが会ったことも無い、情報も全く無い野生のゆっくりを探そうと思えば一朝一夕では済むまい。 巣に帰らず旅になるかもしれない。すると残されるのはれいむのみとなる。それが、れいむにとっては嫌なのだろう。 親子喧嘩は白熱し、ありすは口論の末に大声で叫んだ。れいむに言葉をぶつけた。 「あかのたにんが、おかーさんづらしないでねっ!」 その言葉を聞き、私は思わず呆然としてしまった。 それは、言ってしまったらダメだ。それを言ってしまっては、終わりだろうと。 画面のありすはその後れいむの制止を振り切って巣を飛び出すが、ボロボロになって探しても親は見つからず、結局ほうほうの体で巣へと帰ってきていた。 何日かぶりの再会に親れいむは涙し、ありすはそんな親の姿に涙した。 その後二匹は仲直りし、これで泣けるでしょと言いたいかのようなハッピーエンドとなったが、私はさっきのありすの言葉が忘れられないでいた。 私は無意識の内に、ゆっくり達の後頭部へと視線を移していた。 ゆっくり達は「よかったね~」などと笑顔で感想を言い合ったりしていた。数十分前のことは、あまり覚えてないかもしれない。 まりさの伴侶であり、れいむとありすの実の親である親れいむは、既に亡くなっている。 別にレイパーありすに犯し殺されたわけではない。ではないが、それがきっかけだったかもしれない。 まりさとれいむは私が野良だった二匹を拾ったのだが、れいむはどうやら生まれつき体が弱かったらしい。 それがレイパー事件を境に悪化し、ありすを産んだ六日後に息を引き取った。 それでもその六日間は濃密な日々だったらしく、ありすは今でも親れいむの思い出話を嬉しそうに語る。 記憶力が軒並み悪いと言われるゆっくりの中では、なかなかの記憶力である。それだけ、ありすの中で親れいむの存在は大きかったのだろう。 私はゆっくり関係でとある集まりに属している。 ゆっくりんピースのような大それた団体でも、虐待コミュニティのような熱心さでもない。 本当に、ただ近隣でゆっくりを飼っている人たちが、ゆっくりを連れて集まって、だべったり遊んだりする程度の、ゆる~い物である。 もっとも、親れいむが死んでからはありすが塞ぎこみがちだったので、ここ数ヶ月はあまり顔を出していないが、そろそろいいだろうと判断した。 次の日曜日、近所の市民公園に集まるらしいので、私もゆっくり達を連れてそこに行くことにした。 その旨を伝えるとまりさとれいむは久しぶりに友達に会えると色めき立ち、ありすは友達が出来るかな、と目を輝かせていた。 この集まりには飼い主同士の交流だけでなく、ゆっくり同士の交流もある。 ゆっくり同士で友達になって遊んだり、中には番になったりする場合もあるらしい。 まりさとれいむは親れいむが死ぬ前に何度か集まりに行ったことがあり、友達も何匹か出来ていた。 その友達に久しぶりに会えるので楽しみなのだろう。 私はまりさとれいむだけでも友達に会いに行くかと聞いたことがあったが、 「ありすをほうってゆっくりできないよ!」 と、返されてしまった。そう言われては無理に連れてはいけない。 家族の交流に水を差すことは、私には出来なかった。 そうして次の日曜日。私はゆっくりを連れて近くの市民公園に来ていた。 かなりの広さを誇る芝生が一面に広がっており、幼児向けの遊具も多くある。 ゆっくり飼い主達の集まりは芝生にて、既に幾人かの奥様方やお兄さんお姉さん、お爺さんお婆さん方らはビニールシートを広げている。 弁当やお菓子、茶などを持ち寄った、ちょっとしたピクニックのようである。 私も青いビニールシートを敷いて、バスケットで運んできたゆっくり達を外に出した。既に他のゆっくり達は元気に芝生を駆け回って遊んでいる。 まりさとれいむは、この度この集まりのデビューとなるありすを連れて遊んでいるゆっくり達の方へと跳ねていった。 「みんなにありすをゆっくりしょうかいするよ!」 「みんな、ひさしぶり! ゆっくりしていってね!」 元気良く跳ねていくゆっくり達の後姿を見送りながら、私はビニールシートに腰を下ろした。 既に他の方々はお茶菓子などを広げて談笑に花を咲かせているようだ。しばらくぶりなので、私も挨拶をしに行こうか。 まだ昼前なのでお弁当はもう少し経ってからだろう。私が皆様に配ろうと思っていたクッキーを取り出すと、知った声が後ろからかけられた。 「久しぶりですね」 その声に反応し、振り返るとやはり見知った姿がそこにはあった。 「麗子さん、お久しぶりです」 ペコリと会釈をすると、彼女──麗子さんは「呼び捨てでいいのに」と言いながら、私の隣に腰を下ろした。 麗子さんはこの集まりの中では、私が一番よく話す人物だった。年が同じということもあり、よくゆっくりについて語り合ったりしたものだ。 今は確かゆっくりありすを飼っているはずだ。 「どうしたの。全然来ないから心配してたんだよ」 「ちょっと、こっちのゆっくりの家族事情が込み入ってまして」 「と、いうと?」 私は保温水筒に入れてきた紅茶とクッキーを麗子さんの分も一緒に広げながら、話すかどうか悩んだが、 「みんなっ、れいむのいもうとのありすだよ! ゆっくりしていってね!」 「ほらありす、みんなにごあいさつだよ」 「ゆぅ……ゆっ、ゆっくりしていってね!!」 ありすを皆に、自慢げに紹介しているれいむとまりさを見て、別に隠すことでもないかと思い直した。 「あのありす、見えますよね?」 「……うん、でも確か……」 「はい、まりさの伴侶はれいむでした」 「じゃあ、もしかして」 「お察しの通り、レイパーありすです」 私は事件の事を麗子さんに話し始めた。 あれは私が、まりさと子れいむを連れてゆっくりフードを買いに行っている間に起こったことだった。 私は最初、ゆっくりにあげるゆっくりフードについて悩んだ。どれをあげれば良いのかと。 知り合いに聞いたが、それでもれいむとまりさにあげるエサの条件に合うゆっくりフードは複数あったので、いっそのこと本人に選んでもらうかと思い、以来ゆっくりフードを買う時は食べるゆっくり達本人を連れて行っている。 あの日は親れいむの体調が芳しくなく、親れいむは家で留守番の運びとなった。 美味しいご飯を買ってくるからゆっくり待っていてね、と言うと親れいむは笑顔で「ゆっくりしているよ」と答えた。 そうして私がまりさと子れいむを連れて家に帰ると、そこには顎の下を膨らませてぐったりしている親れいむがいた。 私はすぐさまそれがレイパーありすの仕業だと理解した。窓は割られており、そこから侵入したと思われた。 まりさと子れいむは泣きじゃくって親れいむに寄り添ったが、命に別状は無かったようで安堵していた。 産もう、と最初に決断したのはまりさだった。親れいむが産みたいと思うなら、産もうと。 親れいむはというと、笑顔で「ゆっくりあかちゃんうむよ」と言っていた。 私は聞いた。なんでレイパーの子を産むのかと。 大体においてレイパー被害者のゆっくりは堕胎を選ぶ(野生ゆっくりの場合は胎生妊娠の場合は堕胎が出来ないので産んでから殺すか育児放棄をする)。 それなのになんで産むのかと。 二匹はこう答えた。 「ゆっくりしたあかちゃんにあうのに、りゆうなんかいらないよ」と。 その後親れいむは無事にありすを出産し、その後六日は家族仲良く過ごした。 皆、餡の繋がりなんか知ったことかと言わんばかりに、本当の家族のように仲良く過ごした。いや、ようにではないな、本当の家族だった。あの四匹は。 だが、傍目からは分からなかったが(少なくとも私とゆっくり達は気付けなかった)、親れいむは日に日に衰弱していったようで、六日目に静かに息を引き取った。 まりさも、子れいむも、ありすもわんわんと泣いた。涙が枯れるのではないかというほど泣いた。 その後しばらくありすは生まれたばかりの頃とは打って変わって塞ぎこんでしまった。 「だからしばらくは、ありすが落ち着くまで来ないようにしてたんです。まりさとれいむもありすに付きっ切りでした」 「そうだったんだ……」 私と麗子さんは、どちらともなくゆっくり達へと視線を向けた。 そこでは集まったゆっくり達にありすを紹介して周っているまりさとれいむが居た。 しかし、周りのゆっくり達は皆首を傾げている。皆知っているのだ、まりさの伴侶はれいむだったはずと。 だから、家族として紹介されたありすに疑問を抱いている。 「むきゅ、まりさのおくさんはれいむのはずよ」 「なんでありすなの?」 「わからないよー」 ゆっくり達は皆口々に疑問をぶつける。 中には 「そのこはまりさのおちびちゃんなの?」 と、ストレートに聞いてくる者もいた。 だが、まりさとれいむはそんな質問にも毅然としていた。 「ぷんぷん、れいむとありすはまりさのじまんのおちびちゃんだよ!」 「ありすはれいむのじまんのいもうとだよ!」 そう言われては何も言えない。ゆっくり達は口を噤んだ。 しかし、ゆっくりが単純なのかここの集まりのゆっくりが単純なのか、十分後には皆そんな事は気にしなくなり、ありすも混ぜてみんなで楽しく遊び始めた。 皆実に良い子達である。 「…………ん?」 私はふと、見知らぬゆっくりを目にした。 別に私は全てのゆっくりの見分けがつくわけではない。だがここの集まりのゆっくり達は大体覚えている。 それになにより、そのゆっくりは装飾品に普通のゆっくりにはない飾りをつけていた。 「麗子さん、あのゆっくりって……」 「あの……? あぁ、あれは成田さんのゆっくりよ」 「成田さん?」 「ほら、あそこ」 麗子さんが指差す先、そこにはそこには私より二つか三つばかり年上の人たちのグループがあった。 そしてそこに、私の見覚えの無い顔を見つけた。 「あの人ですか」 「そう、君が来ない間に新しく来始めたの。なんでも家がお金持ちらしくてね、ゆっくりにも結構お金かけてるんだって」 言われ、ゆっくり達のグループに目を戻した。 先ほど目に付いたゆっくりは、髪につける装飾品にまた別の飾りをつけていた。ブローチだったり金の刺繍だったりと。 確かに遠めに見ても高そうだとは思えた。 そんな高そうな飾りをつけているゆっくりはれいむ種まりさ種ありす種ぱちゅりー種ちぇん種みょん種といた。六匹も飼っているとは。 ゆっくり達は生まれつき持っている自分の装飾品が命の次に大事だ。それがなくてはゆっくり出来ないからだ。 自分の生まれつきの装飾品ではなく、人間が用意した別のリボンなどをつけてゆっくり出来ないと泣くゆっくりがいたが、自前の装飾品に何か手を加えることはいいらしい。 それこそ物によってはよりゆっくり出来ると喜ぶそうだ。 あの高そうな追加飾りも、その一つだろう。 「後で挨拶しておこうかな」 その後お昼時となり、飼い主ゆっくり皆入り交ざってのお弁当タイムとなった。 私は麗子さんと一緒に先ほど成田さんが居たグループに混ざった。麗子さん程話したことはないが、皆見知った仲である。久しぶりに来た私を歓迎してくれた。 成田さんにも挨拶しようかと思ったが、成田さんのゆっくりは結構なグルメでわがままらしく、成田さんは自分のゆっくりにエサをあげるのにつきっきりで忙しそうだったので辞めておいた。 「どぼじでいづものじゃない゛の゛ぉ!?」だとか「こんなおそとでたべるなんていなかものだわっ!」と成田さんのゆっくり達の声が届いて、私達は苦笑いした。 ゆっくり達はゆっくり達で(成田さんのゆっくりを除いて)仲良く雑談しながら楽しくお弁当を食べていた。 成田さんちのようなセレブ~、なゆっくりにこんな集まりは場違いなのではと思ったが、遊んでいる時は本当に楽しそうに遊んでいたので、それほどでもないようだった。 「む~しゃ、む~しゃ、しあわせ~♪」 「むきゅ、ありすすごいたべっぷりだわ」 「とってもとかいはだわ♪」 ありすは早速仲の良い友達が出来たようで何よりだ。麗子さんのありすとも仲良くなったようだし。 後で聞いたことだが、どうやらありすは体格が良いようで、ゆっくりの仲では優しい力持ちのような印象を受けていたらしい。 あまり想像が出来なかったが、ゆっくりがゆっくりについて語ったものなら、間違いではないのだろう。 この日は私にとってもゆっくり達にとっても充実した一日となった。 やはり来て良かった。遊びつかれてぐっすりと眠っているゆっくり達の入ったバスケットを抱えて、私は帰り道、そう思った。 集まりの日以来、れいむとありすはしきりに次に皆と会える日はいつかと聞いてきた。 「ゆゆ~、おにーさんつぎはいつみんなにあえるの?」 「みんなとゆっくりしたいわっ」 「まだ未定だよ」 足に擦り寄りながらそう訊ねてくるニ匹を見て、まりさはどうしたのかと思った。 まりさはというといかにも興味無いといった仕草であさっての方向を向いているが、ちらちらとこちらを窺っているのがあからさまに分かる。 「まりさは気にならないのかい?」 「ゆっ!? まっ、まりさはおとなだからみんなとあえなくてもゆっくりできるよ!」 嘘だった。 口の端がぴくぴく動いている。まりさは嘘をつく時、そうなる癖があった。 「まりさ、口の端が動いてるよ」 「ゆっ!?」 まりさにはこの癖を何度か指摘したが、一向に直る気配は無かった。 結局、まりさも友達に会いたいのだろう。私は微笑ましさに口元を緩めながら、ネットの掲示板やメールをチェックする。 まりさはれいむとありすにも癖を指摘されて、「ゆっくりうそじゃないよ」と言い訳をしていた。 「おにーさん、あのピカピカしたこまたくるかな?」 「ピカピカ? ……あぁ、成田さんとこのか」 確かに装飾品はピカピカしてたな。 「会いたいのか?」 「ゆゆっ!? ちがうよっ、ちょっときになっただけだよ!」 そう言うれいむの口元もピクピク動いていた。 その二週間後の日曜日、再びゆっくりと飼い主達が集まった。結構暇人が多いのか、前回と同じくかなりの出席率だった。前回居た人の中では成田さんだけがいない状態だった。 前回と同じ公園であった。このような場所を選ぶのは、ゆっくり達が元気良く遊べるようにと配慮した結果である。 「皆、今日はどうするんだい?」 「まりさはおともだちとひなたぼっこするよ」 「れいむはみんなとこうえんをぼうけんするよ!」 「ありすもよっ!」 まりさは公園の中心で同年代のゆっくり友達と遊び、れいむはありすと、その他数匹の友達と一緒に公園を隅々まで散歩するらしい。 この公園にはゆっくりの害となる動物は住み着いていないし、飼いゆっくりの証であるバッジもつけてるから安全だろう。 そもそもそれぐらいの安全が確保されている所でなければ、ゆっくりをおいそれと連れてはこれない。 「それでも心配なんですね」 「まぁ、ですね」 私はれいむとありす達の後を尾行していた。麗子さんと一緒に。 気付かれない程度の距離を保って、ゆっくりと後を追う。目先の楽しみに夢中なゆっくり達は滅多なことでは後ろを振り向かないから気付かれないだろう。 れいむ達はまず、公園を四角に見立てた際の辺を辿って一周するようだ。 あまり外に出たことのないありすは色々と珍しいのか、なんでもないような物にさえ目移りしながら跳ねている。 「ありす、ゆっくりしないとあぶないよっ」 「ゆゆっ、ゆっくりきをつけるわおねーちゃん」 足元がお留守で危なっかしかったが、れいむの注意や他のゆっくり達が気を使ってくれたおかげで何事も無く四角形の角まで辿り着いたありす。 柵に囲われた向こう側には、公共道路がある。歩道を人が往き、車道を車が駆け抜けている。 「ゆ~? おねえちゃん、あれは〝くるまさん〟?」 「そうだだよ、ぶつかったらゆっくりできないからここからでちゃだめなんだよ」 「ゆっくりわかったわ」 そう言えばありすは車を生でを見るのが初めてだったか。 外に出る時も大体はバスケットに入れて運んでいるから外は見れないだろうし。 車の危険性をいざという時のために教えておいた方が良かったかと思ったが、この機会に実際に目で見て学んだだろう。 その後れいむとありす達は公園をグルッと一周したが、特に目新しいものは無かった。 もっとも、それは私から見た感覚であったため、ありすにとってみれば違った感じ方をしたのかもしれないが。 この日もいつも通り、飼い主達とゆっくり達の交流はつつがなく終わり、陽が紅くなるころ解散する流れとなった。 何故かこの時、ありすはしきりに公園の外の方を眺めていた。 ゆっくりの寿命について、私は何も知らない。。あまり考えたこともなかった。 実際、ゆっくりが寿命で死んだ話をあまり知らない。ゆっくりの死因の殆どが外的要因か病気だからだ。 だから私は、まりさが最初老衰だと知った時、全く動揺を抑えることが出来なかった。 あのありす二度目の集まりの日、家に帰った後──いや、家に帰る道中から既にまりさは元気が無かった。 もしかしたらそれより前に兆候があったのかもしれないが、私はまたもやそれに気付くことは出来なかった。 仮に気付くことが出来たとしても、老衰など避ける事が出来ないのだから致し方ないとしても、私はまた親れいむの時の繰り返しかと悔いた。 「ゆ~、まりさおかーさん……」 「まりさおかーさん……」 れいむとありすが積み重ねたタオルの上でぐったりとしているまりさを心配げに見つめている。 あの日曜日の日から一週間。日に日にまりさは弱っていった。 知り合いに聞いたりネットや本で調べたり。事例が少ないから調べるのに時間がかかったが、まりさのこれは老衰、つまり寿命であることは判明していた。 ゆっくりの寿命は、やはり確認できた個体数が少ないため参考程度にしかならないが、概ね三年から八年と言われているらしい。 まりさを拾って既に二年が経過している。拾った時点の大きさで生後一年以上は経過していただろうから、寿命が来たとしてもありえない話ではなかった。 それに、調べた事例の中でも野生のゆっくりは寿命が短い傾向にあった。 「ゆぅ……おちびちゃん、ゆっくりしていってね」 『ゆっくりしていってね…………』 まりさの弱弱しい挨拶に揃って返す二匹。 まりさはそんなれいむとありすに満足気に微笑むと、私に向かってこう言った。 「おにーさん、おちびちゃんたちをつれていってあげてね……」 「なんだ、知ってたのか……」 実は今日も、皆で集まらないかという呼びかけがあった。麗子さんから来た呼びかけの電話をまりさは聞いていたのだろう。 私はまりさがこんな状態なので行く気は無かったし、れいむとありすが多分行かないと言うだろうと思っていた。 前にありすが塞ぎこんだ時は、まりさともれいむも一緒になって家から出ずありすに付きっ切りだったからだ。 しかし、そんな私の考えに反してまりさはれいむとありすに、細々とした声ながらも 「おちびちゃんたちはゆっくりあそんでね……。おちびちゃんがゆっくりしてると、まりさもうれしいよ……」 そう、笑顔で言ったのだった。 れいむとありすは何か言いたげだったが、何も返さなかった。 ただこくり、と頷いた。私は二匹は家に残ると思っていたのだが、まりさの笑顔に負けたのか、それとも何か別の思いがあったのだろうか。れいむとありすの後姿は、ぴくぴくと震えていた。 どちらにせよ、一週間後に私はれいむとありすを連れてあの公園に行くことになった。 過去の事例からして、恐らくまりさが親れいむと同じ所に行くのも、一週間後ぐらいだろう。 「そう、まりさちゃんが……」 「まぁ、寿命で死ねるなら、ゆっくりした生涯だったと言えなくもないですが……」 「そればっかりは、どうしようもないね」 「せめて幸せに逝けることを願ってますよ」 次の日曜日、私はまりさの願い通り、れいむとありすを連れてあの公園に来ていた。 まりさはあれから、日に日に一日あたりの睡眠時間が増えていた。 今もきっと、留守番しているまりさは寝ていることだろう。 れいむとありすは公園の冒険にまた出ている。今度は別々、一匹だけで周ってみるそうだ。 私が座っているビニールシートから見える範囲では、成田さんのゆっくり、れいむ種まりさ種ぱちゅりー種ちぇん種みょん種が他のゆっくりの視線を集めていた。 「…………ん?」 よく見てみる。高そうな装飾品を付けている成田さんのゆっくり。確か六匹いたはずだ。 だが、今ここから見える範囲では、五匹しかいない。どこか別の場所にいるのだろうか。 ────嫌な予感がする。 「麗子さん、ちょっとれいむとありす探してきますね」 「また心配?」 「えぇ、ちょっと」 立ち上がり、私は公園を駆けた。その足は無意識的にある場所を目指している。 第六感としか言い様の無い感覚に突き動かされ、私は走った。 公園の外へと。 「ゆっくりはんせいしたかしら?」 ありすのその声が聞こえて、私は足を止めた。 何故かそのまま、気付かれぬようにそっと身を伏せていた。視線の先には、私の飼っているありすと、成田さんのありすがいた。 「なにをはんせいするの!?」 公園の外の歩道。今こそ人がいないそこで、二匹は向かい合っていた。成田さんのありすは頬を膨らませて怒っている。 「あなた、ありすのおちびちゃんでしょ? すぐにわかったわ」 成田さんのありすは、自分の言葉にありすが答える前に膨らませていた頬をしぼませ、そう言った。 言われたありすは、何も答えない。 私はそのやり取りを見て、ゆっくりの親子は相手の顔を見ればすぐに相手がそうだと分かるという生態を、私は思い出していた。 そして、思い、思い出す。 成田さんのありすの言葉通り、成田さんのありすがレイパー事件の犯人だった場合。 あの時窓は割られていた。普通に考えれば、ゆっくりが民家の窓を割れるわけがないとすぐに気付いたはずだ。 そう割れるわけがないのだ。野生のゆっくりが、たとえレイパーモードのありすといえども。 古い時代の薄い窓ガラスならともかく、現代の民家の窓を饅頭がそう簡単に割れるわけがない。 だが、野生のゆっくりではなく飼いゆっくりだったら? 犯行に人間が絡んでいるとしたら、どうだろうか。決して不可能ではなくなる。 人間が窓を割って、ゆっくりを投入する。人間は入らず、ゆっくりだけ。 そうすれば、野生ゆっくりの犯行に、見えるかもしれない。 「ありすのかわいいおちびちゃんが、こんなところにつれてきてなにするの?」 成田さんのありすは、小ばかにしたような嘲笑を浮かべながら、そう言った。 言った瞬間、ありすが爆発的な速度でその体を突っ込ませた。 激突。成田さんのありすはありすに体当たりされ、吹っ飛んだ。 「ゆびっ!?」 そしてそのまま、ありすは成田さんのありすを踏みつけたはじめた。 成田さんのありすの上で、何度も何度も跳ねて、踏みつける。全体重をかけた渾身の攻撃を。 「れ゛い゛ばーはじねっ!」 ありすは濁った怨嗟の声をあげながら、常とは違う怒りの形相に顔を歪ませていた。 成田さんのありすは、ありすに踏まれる度にカエルの潰れたような声をあげながら、その体をボロボロにしていった。 何度も何度も、何度も何度も。 ありすが連続で踏みつけることによって、成田さんのありすは顔面ボロボロ、髪もボサボサ、皮も破れているところがあるという有様になっていた。 五十回か百回だろうか。数えてはいないがそれぐらいだと思える程には踏みつけたありすは、成田さんのありすから降りてその髪を咥えた。 成田さんのありすはまるで虐待趣味の人間に出会った後のようにボロボロに見えた。 だがまだ体力的に余力はあったのだろう。成田さんのありすは先ほどのありすの声に負けない程の声量で言った。 「ゆびゅっ……なにずるの! あなだま゛ま゛をごろずづもりっ!?」 餡の関係から言えば、成田さんのありすにそう言う権利はあった。そして続けて言った。 「いっでおぐげど、ありずがあのでいぶをあいじであげながっだら、あなだはうまれながっだのよ!? わがっでるの!? あなだはままをごろぞうとしているのよっ!」 「ありすのおかーさんは、れいむおかーさんとまりさおかーさんよ」 ありすは踏みつけたことにより、熱が冷めたのか冷たくそう言うと、成田さんのありすをずりずりと引っ張り始めた。 「ふんっ、なにいっでるの! ばりざはあなだをそだでただけでしょ! あなだのままはありずよっ! ままをごろずなんでとかいはじゃないわ! レイパーとままごろしだったらどっちがいなかものかしらっ!? ありずはだれもごろじだごどはないわっ!」 ありすは成田さんのありすのマシンガンのような言葉にも一切反応せず、その体を引っ張っていく。 車道へと。 歩道と車道の境。あと少し出れば車道。そのもう少し出れば轍であろうそこに、ありすは成田さんのありすを引きずっていった。 何をするのか、ようやく成田さんのありすも理解出来たようだ。 成田さんのありすが何か言おうとする。また「ままを殺すのか」とでも言うつもりだったのかもしれない。 ただ、それより先にありすが一言、言った。 「あかのたにんが、おかーさんづらしないでね」 ブンッ、とありすは口に咥えた髪を振るって、成田さんのありすを車道へと放り投げた。 轍へと着地した成田さんのありすは、何かを叫ぶ前に、ちょうどよく通ったワゴンのタイヤによって踏み殺された。 辺りに飛び散るカスタードクリーム。不恰好に潰れた皮。コロコロと歩道へと転がってきた眼球。 拍子抜けするぐらいあっさりと、成田さんのありすは死んだ。 呆然としている私の足元に、何かが擦り寄ってきた。 顔を下に向ける。れいむだった。 「れ、れいむ……」 「ゆぅ……さきをこされちゃったよ……」 「れいむ、知ってたのか……?」 「うん」 「ありすから聞いたのか?」 「ちがうよっ、でもありすはうそがへたなんだよ」 「れいむも、あのありすを殺すつもりだったのかい?」 「ゆっくりしてたけっかがこれだよ」 成田さんのありすの死は、事故ということで処理された。目撃者である一人と二匹が揃って同じ証言をしたのだから。 成田さんのありすと仲良くなったありすが、うっかり公園の外まで連れて行ってしまって事故にあわせてしまった。 私は公園の皆に、そう説明した。 その後は不幸な出来事が起こってしまったがゆえに、そのまま解散となった。 皆が立ち去る中、私はレイパー事件のことについて成田さんに何か言おうかと思ったが、回収できたありすの死骸に向かって泣いている成田さんを見ると、そんな気もなくなった。 成田さんも成田さんなりに、ありすを可愛がっていたのだろう。どんなやり取りがあったかは知らないが、ありすの要望を聞いてやろうと思ったのかもしれない。 …………だが、後日窓の修理代ぐらいは貰おうかと、思った。白を切られたら諦めよう。 家に帰ると、まりさは起きていた。 相変わらず元気は無いが、目は開かれていた。きっと、れいむとありすと帰りを待っていたのだろう。 「ただいま、まりさ」 『おかーさん、ただいま』 家に帰るとまず、れいむとありすはまりさの所へと向かった。 まりさは穏やかな目をしていた。かつてのようなゆっくりらしい無邪気で元気なものではなく、これから死に逝く者の、穏やかな目だった。 「れいむ、ありす……。きょうはなにをしたの?」 「ゆっ……」 まりさの質問に、れいむは押し黙った。押し黙って、そのまま俯いてしまった。 ありすも顔を逸らしこそしなかったが、口を開けずにいた。 「まりさにかくれて、なにかした……?」 その質問がまりさの口から出た時、私はれいむとありすよりも飛び上がるかと思った。 もちろん私は飛び上がらなかったし、れいむとありすも飛び上がらなかった。 だが、皆内心で汗をかいていたと思う。 「ゆっ、なにかって、なに……?」 いつもと違う尻すぼみな口調で、れいむは逆に訊ねた。 「ゆっくりできないことだよ……」 「な、なにもしてないよ」 「ゆっ、そうよ」 まりさと言葉にれいむが慌てて言い、ありすもそれに追従した。 私もれいむもありすも、まりさに本当の事が言えないでいた。 これから死んでいくであろうまりさに隠し事をすることよりも、変な心配をされたままの方が、嫌だと思ったからだろうか。 理屈は後でいくらでもこじつけられるだろうが、今この時、私はれいむとありすの嘘を告発する気はなかった。 「おちびちゃんはまりさにないしょで、だいじなことをしたんだね……」 だから、まりさがそう言った時、私は心が読まれたのかと思った。 だが、そうでは無いようだった。まりさは私と同じく驚いているであろうれいむとありすの顔を見据えると、静かに、言った。 「れいむ、ありす……おくちがぴくぴくしてるよ。ふたりはうそをつくとき、そうなるんだよ。 まりさににて、ふたりともうそがへただね……」 何でもない言葉だ。他愛ないやり取りだったかもしれない。けれども私は、動くことが出来ずに息を止めた。 ざまみろ、と柄にもなく心の中で叫んでいた。 餡の繋がりだとか、実の親だとか、まりさはそんなもの軽々と無視したかのように思えたのだ。 まりさは、まりさとれいむとありすの連続性を証明した。理屈ではないが、餡の繋がり関係ないじゃん、と私は一人呟いた。 れいむとありすは何も喋らず、ただ、泣きじゃくっていた。 翌日、朝を迎えるとまりさは息を引き取っていた。 残された姉妹は二匹、そっと親の亡骸に黙祷を捧げた。 朝日を浴びるまりさの死に顔は、とっても安らかだった。 おわり ───────────────── これまでに書いたもの ゆッカー ゆっくり求聞史紀 ゆっくり腹話術(前) ゆっくり腹話術(後) ゆっくりの飼い方 私の場合 虐待お兄さんVSゆっくりんピース 普通に虐待 普通に虐待2~以下無限ループ~ 二つの計画 ある復讐の結末(前) ある復讐の結末(中) ある復讐の結末(後-1) ある復讐の結末(後-2) ある復讐の結末(後-3) ゆっくりに育てられた子 ゆっくりに心囚われた男 晒し首 チャリンコ コシアンルーレット前編 コシアンルーレット後編 いろいろと小ネタ ごった煮 庇護 庇護─選択の結果─ 不幸なゆっくりまりさ 終わらないはねゆーん 前編 終わらないはねゆーん 中編 終わらないはねゆーん 後編 おデブゆっくりのダイエット計画 ノーマルに虐待 大家族とゆっくりプレイス 都会派ありすの憂鬱 都会派ありす、の飼い主の暴走 都会派ありすの溜息 都会派ありすの消失 まりさの浮気物! ゆっくりべりおん 家庭餡園 ありふれた喜劇と惨劇 あるクリスマスの出来事とオマケ 踏みにじられたシアワセ 都会派ありすの驚愕 都会派ありす トゥルーエンド 都会派ありす ノーマルエンド 大蛇 byキノコ馬